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光と影は切ってもキレナイ

 「カメラをまわせ ! あれが現実だ。みんな檻から出された獣なのさ ! 」
 窓の外の夜の闇から銃声が聴こえる。ストリートギャングたちが抜けた仲間を襲っているのだ。

光と影は切ってもキレナイ_b0019960_19204433.jpg 昨夜のニュースで、ニューヨークで低年齢化して増加しているというストリートギャングを一年にわたって取材した特集があり、それは短い時間だが、実に臨場感あるハーレムの街や若いギャングたちのリアリティのある姿を垣間見ることができた。
 彼らがこんな内部の取材に応じたのは、取材者が日本人という彼らにとっては同じマイノリティだからだという。

 しかしまず呆気にとられたのは、彼らのまるで映画の脚本に書かれているような話っぷり。誤解を怖れずに言えば、とても魅力的なのだ。
 まだ十代のギャングたちをアパートに招いて、彼らの頭を散髪してやりながら、更正へと誘う元ギャングの男は三十代初め。若いギャングたちが気持ちを許しているのも、彼が説教じみ押し付けるという態度ではないからだ。ただ自分の経験からナチュラルに関わっているからだろう。その彼にしても話っぷりはそのままラップを聴いているようだ。しかも実に的確に応え話す。

 ひとりのギャングは足を洗い、氷点下の夜の街に、警備員として10時間も立つ地道な仕事で得た給料で、はじめてまともに買物して家族から喜ばれたり囃し立てられたりする。

 一度その世界に入ったからにはギャングを抜けるのは絶望的にたいへんだと言う。
 彼は報復を受けて、翌日顔を腫らして答える。
 「殺してやりたいのはあたりまえだ。でも刑務所はもういやだからな」
 それから学校へも行き、先々を思い勉強をはじめる。
 「・・・うまくいくかどうかはわからないが、まあ弁護士ぐらいにはなれるさ」というジョークともとれる言葉が自然に出る。

 ひとりは八歳の時に店で最初の盗みをした。
 動機は腹が減って他に選択肢がなかったからだという。それから常習のように盗みや暴力の世界に馴染んでしまう。
 彼は取材中にもまた事件を起こし、警察に追われ逃げ隠れしながら「オレはギャングはやめられない」という。
 保護観察か半年の刑務所かを選択しなくちゃならない彼は、何年も盗まないでいたり大人しくしている自信はないから刑務所に行くという。
 更正をすすめる男は「刑務所に行けばもっと暴力的になって帰ってくるぞ」と保護観察を選ぶようにすすめる。

 彼がどちらを選択したかはわからないが、インタビューの最後には十代らしい率直な正直な言葉が出る。「ホントはやめたい。無理だと分かっているが最初からやりなおせたら・・」

 彼らが取材を受け入れたのにはもうひとつ理由があった。
 この機会を逃せば、自分達の現実を知られることはないだろうからだと言う。

 ブッシュ大統領が演説している場面がある。
 「ギャングから子供たちを守ろう」
 会場の拍手を、いつものにやにや顔で見渡している顔。

 「あれはまったく偽善だ」とインタビューされている識者が言う。

 増え続けるストリートギャングの原因は?、という質問に、最後に取材者はあまりにはっきりと言う。

 「かたやテロ戦争を名目に莫大な資金を注ぎ込んだアメリカは、その間、国内の格差は拡大し貧困層は増え続けています・・」

*(文中の言葉は、実際上の番組の言葉に正確というわけではありません)
by past_light | 2006-02-21 19:26 | ■コラム-Past Light | Trackback | Comments(0)

過去と現在、記憶のコラム。

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