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谷川俊太郎にまつわる話---1

 詩人の谷川俊太郎と作家の大江健三郎の対話を本屋で立ち読みしたことがあった。

 それもこれももうだいぶ前の話になるけれど、谷川さんは絵本作家、画家の佐野洋子さんと一緒になってから、詩の世界が確かに変わったように感じていたのはぼくも同じだった。
谷川俊太郎にまつわる話---1_b0019960_14575502.jpg そのことで大江さんは「佐野さんと関わっているということは、詩人、谷川俊太郎にとって危険ではないかと思う」というようなことを言っていた。
 ぼくは、その率直な対話に感心したし、ある意味で、詩人谷川を重要な芸術家として、その存在に尊敬と敬意を厚く持つ大江さんの洞察力のある言葉に、批判めいた調子や押し付けがましい意見というのではないものを感じて、その正直さに気持ちがよかった。
 しかし、谷川さんは意識的に天上から地上への下降を自らに課していたのだと、なんとなく知っていたので、大江さんのような形而上的なタイプの芸術家には不可解なのだろうとも思った。
 その是非とか、肯、否定というのは、ぼくなどにも結論など浮かぶべくもなく、深遠で、むずかしく、しかも誰かが決めてしまうということ自体ができないことだと思っている。

谷川俊太郎にまつわる話---1_b0019960_19155076.jpg 谷川さんは、わりと子供の時から生活感というものから遊離した、詩のなかにあるように、『そして私はいつか どこかから来て 不意にこの芝生の上に立っていた・・・』というような透明な、永遠の少年像の感じを持っていたと思われる。
 そこから生まれていた湿度のない、軽やかさもある言葉で編まれたような詩は、出逢ってから詩集を開くたびにいつも新鮮な気持ちにさせてくれた。

 しかし、母親、父親との別れなどを通過し、佐野洋子というまったく違ったタイプの女性との生活から、随分とそれまでの自分を問い直していたような感じがあった。ぼくは「はだか」という直接的に佐野さんの影響から生まれたような詩集も「女に」という赤裸々な男女の愛の様相を綴ったものなどにも、その変化を大きく感じていたし、迷いつつ買った「世間知ラズ」は迷ったことを忘れる程、心に響いた詩集の一冊になった。

 これはぼく自身の中の、精神と肉体の成熟と老化にすら気づき、そして死というものすらも表面意識にのぼってくるような経験に思えた。

 詩という形態に対する懐疑というのも、ある意味率直に詩のなかで書かれているが、なにか確かに自虐的にすら感じるかもしれないものもないわけではない。

 『詩なんてアクを掬いとった人生の上澄みねと 離婚したばかりの女に寝床の中で言われたことがある』

 ・・・・しかし、この詩集はそんなことを超えて、詩として逆説的に完成しているのがなんだか不思議でもある。

 谷川さんの話のなかで「生活することの中での変化が、私を変え、考えを変え、詩を変えてゆく、やっと関係というもののなかへ私は入りはじめたのです」という言葉などを見ても、本当の意味での誠実さとか真面目さとかは、格好がつき、今ある自分のステータスに満足しているようなポジションにはないということを、改めて感じるのだ。

 で・・こういうことというのは、「男らしいとは」とか「女らしいとは」とか、そういう問いに即答的に誰もが答えやすいような、あらかじめ持っていて疑わない、その固定観念、イメージをも懐疑できることにも繋がると思ったりするのですが・・・どうでしょうか。(1999.6記述 2004.9修正)
Tracked from 文屋 at 2005-02-12 17:02
タイトル : 別冊カドカワに書きました。
ふだん現代詩の世界にいると、こむずかしいことばかり考えていて いまでも、伊東静雄の戦中の一部の作品は、どうだったのかなどと 頭をかかえていますが、たまには、一般誌から 原稿依頼があって書いている。 このブログってまだ、数週間しかたってなくて、もひとつ トラックバックやなんやかやの仕組みわからなかったけど徐々にわかってきた。 まあ、自分の書いた文章で、いま本屋でもちらっと読めるものは、一応 案内しておこうと思った。 「別冊カドカワ」のGLAY特集という雑誌があって そこで、GLAYの詩について述べ...... more
Tracked from 文屋 at 2005-02-16 15:46
タイトル : ◆詩は、世の中に必要か
現代詩のことを書く。現代詩のことは時々考える。 「詩」のこととは、まったく違った次元で。 先日、聞いた話。新しく詩集を出した人が、京都の書店に自分の詩集を持ち込んだら 即座に、納品を断られた。「現代詩ねえ」「売れないでしょ」「そもそもいまの世の中『現代詩』 必要ないでしょ」と言われたそうだ。京都でも全国的にも、詩歌の分野をしっかりおいている この書店ですらこうなのだ。しかもその詩集は、詩書出版では日本を代表するような版元なのに。 彼女は、賞もとっている詩人。 いろいろ複雑な状況だろうけども、ぼくは、仕...... more
Tracked from 日記なぞ・・・ at 2005-11-20 22:05
タイトル : 日本生命のCMに谷川俊太郎氏の詩が引用されることについて
詩人の谷川俊太郎さんの詩が日本生命のCMで流れています。これを見るともなく見るにつけ、私の中になんか引っかかるものがある。一体なんだろう、と思って久しいのですが、今般分析をしてみようかと。  まあ、いきなり前言を翻しますが、分析をするまでもなくこの生じ... more
Tracked from Best縲€Thinking at 2009-03-02 16:48
タイトル : 谷川俊太郎さんのこと
自分は文学というジャンルに関して、そもそもそんなに興味がなかったのに、今までなぜか理由は分からず、縁が深かったような気がします。谷川俊太郎という詩人は、そもそもあんまり好きではありませんでした。それなのに、大学時代に授業の一環で、講演を聴く機会があったり、書店... more
Commented by acoyo at 2004-09-13 20:32
うちのブログにも来ていただき、ありがとうございます。
……それがどうも奇遇が続くのか、前回の矢野×坂本に引き続き、私の理想のカップルとなったのが、この谷川×佐野です。ちょっと、自分のミーハーぶりが懐かしくなりました。
谷川俊太郎の詩は、朝と真夏に読むのが好きです。
Commented by past_light at 2004-09-13 20:51
acoyo さん、さっそくありがとうございます。
奇遇、そういえば、人類の意識は底辺で繋がっていると・・(笑)。
よく、同じ発見や発明が幾人か重なる・・というはなしも聞いたことがありますが、
この場合は・・大げさ・・と言うべきなんでしょうか(笑)。

いや、しかし、ふた組とも今ではお別れになって、複雑な心境です。

そう、ネスカフェの「朝のリレー」のスクリーンセーバー、ダウンロードしてしばらく使っておりました。
Commented by acoyo at 2004-09-14 21:07
私が憧れるから、別れるのかもしれません。
何度もお邪魔しておりますが、リンクさせていただきました。私の下世話な文章を思えば、こちらの品のよさに少し面はゆいのですが……。これからもよろしくお願いします。
Commented by bunyahagi at 2005-02-14 20:50 x
はじめまして。きょう、「きょうの、わたくし」にも行ってまいりました。軽快で辛辣。ついつい自分にはっぱかけられているようで少々愉快。

谷川俊太郎。とにかく彼の詩は、とってもアブストラクトなところもあって、万人にも「わかる、うける」とこが偉いとも思っていますが、「コカコーラレッスン」や「日々の地図」あたりの濃いめの
詩が好みです。

佐野さんと結ばれてからは、トーンダウンしましたね。
「朝のリレー」などの、おおらかなレトリックが、広告コピーでもない、詩でもない中ぐらいのスタンスで、うけたのがよくなかったのかもしれない。

この「中ぐらい」がうけたのに、大衆全部に大まかにうけたと
勘違いしたのかもしれません。
いわんや、最近の生命保険のCM、あれは、まったく
広告コピーでした。TVで流れているときに
谷川俊太郎の名前がクレジットされるだけで、
無関係のぼくが赤面してしまいます。

past lightさん
acoyoさんの

元気な筆力に感服しつつ、拍手もしながら
Commented by past_light at 2005-02-15 18:06
>bunyahagiさん
御訪問ありがとうございます。
acoyoさんの「きょうの、わたくし」、同感です。たしかにはっぱかけられているような突撃感あります。
男が書けないものかも知れません。

佐野さんに地上に引きづり降ろされた時期なんでしょうか。
でもそれはかなり大きい経験だったんでしょうか、現在の谷川さんを観ていますと。
今は谷川さん流の「関係」という発見された何かが進行しているのかなあ、、とも思いますが、実はよくわかりません(笑)。

ああ、CMの、見たことあります。確かにボクも意外でちょっと居心地悪かったです。
「詩の安売り王」という賛辞がなんだか実に形を持って来たと言うことなんでしょうか。
これは敵も味方も増殖するという領域にはいったんでしょうか。

こちらのブログもいろいろ覗いていただいてありがとうございます。
Commented at 2005-02-16 12:58 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2005-02-18 19:29 x
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Commented at 2015-07-31 14:34 x
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by past_light | 2004-09-13 20:12 | ■Column Past Light | Trackback(4) | Comments(8)

過去と現在、記憶のコラム。

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