「報復の破綻」

 暮れも押し迫った頃、死刑執行された人の話があった。
 時期的にもいろいろな意味で異例なことだったという。
 この死刑囚にまつわる話は、以前もこのニュース番組で観たことがあった。
 その発端になった犯罪は、よく聴くことのあるお金を手にするための動機だった。

  弟を殺害された被害者の兄の、長い間の犯人に対しての憎しみとの葛藤する日々の中に、獄中からの犯人のかさねて届く詫び状の手紙があった。
 いつか手紙を開いて読む気持ちが兄に訪れた。それをきっかけとして犯人の男と顔を合わせた。
 兄はやがて犯人の男に「死刑ではなく、生きて罪を償ってほしい」と思うようになった。
 ついには法務省に死刑執行しないように要請もした。前法務大臣の時のことだったらしい。
 「被害者家族の思いは、優先され考慮されるべきものだと思う」というようなその時の返事に、兄は少し安堵した時期もあった。
 しかし死刑執行が予想されはじめた頃、被害者の兄は面会を断り続けられる。・・死刑囚の精神を動揺させないため、という理屈だ。

  兄に届く死刑囚の男の手紙は、悔恨と懺悔と悔い改めの感情に満ちていて、いつか来るだろう死期についても覚悟が静かに語られている。
 ただ、殺してしまった弟の兄の「生きて償ってほしい」という思いを、常に感謝の念で受け止めていた。

  そして、師走も押し迫った27日の朝、午前8時、死刑囚の絞首刑が実行された。
 通夜の棺桶に眠る男の顔には笑っているような穏やかな表情があったそうだ。・・しかし、その首には縄の後が無惨に残っていた。
  取材者はその棺桶の中の男の顔をテレビ画面に映して欲しいとつよく希望したが、番組はそれを映さないことにした。

 死刑制度の理由について国は「被害者の家族の思いをもっとも大事にして」というような立場を繰り返し言うそうだ。
 人として、この一件における「兄の思い」は大事にされたと感じられるのだろうか。

  現法務大臣(2001年当時)がテレビ画面に映っていた。やや高齢の女性だ。
 「なぜ、この時期に・・」という記者の質問がとんだ。画面の女性の顔には答えを捜そうとしているような表情が見えた。すかさず横から「個別の質問には答えられない」という耳打ちがされた。女性は表情を立て直し、聴いたそのままの言葉を繰り返した。
(2002.1.11)
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Commented by sizukugaotita at 2005-04-08 18:46
こんな話があるのだと、驚いてしまいました。
事実は小説より奇なりとはいうものの、
本当に小説のような話で、言葉が出ません。
せめて、国の理由が知りたいです。
Commented by past_light at 2005-04-09 14:09
>sizukugaotitaさん
こんにちは。お引っ越しとか、いろいろたいへんだったみたいですね。
またゆっくり伺って御挨拶します。

>せめて、国の理由が知りたいです。

たぶん、想像するに、そのころ際立った犯罪が頻発したのだろうと記憶します。
それから、言葉はなんですけど「みせしめ」という面の意味合いは否定できないでしょうか。
死刑の多いところは、しかし逆に凶悪な犯罪も多いような気がします。
果たして死刑が犯罪防止に有効なコントロールする力を持っているかは、ぼくは疑問です。
楽になるために死を選ぼうとするような部分をもつ人間という生物に。
by past_light | 2005-03-06 02:40 | ■Column Past Light | Trackback | Comments(2)

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