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リストラの雨あがる

 黒澤明の遺作稿の脚本を映画化した「雨あがる」。
前に残念ながら1時間近くも見逃してしまって、テレビで途中から観た。

 淡々とした物語の運びやシーンの繋ぎは、晩年の黒沢の作品をそのまま観ているようなところもあり、「まあだだよ」という映画をぼくは映画観で観ていたので、この不思議な静かな語り口に、ちょっと興味をおぼえる。
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 「雨あがる」の物語はすごくシンプルなようだ。前半を見逃していても後半の話についていける。
 主人公の侍は、腕がものすごく立つのに奥さんと職を求めて旅道中を続けているようだ。
 しかし、ある地区の殿様と息が合い、彼の人格がめっぽう気に入られ、その城にお勤めできそうになる。
 翌日の腕試しみたいな試合にもケタ違いの強さを見せる。
 相手に不足している家来達に業を煮やして殿様が相手をする。思わず本気になって川に落としてしまった主人公に怒った殿様。
 宿に帰る主人公は、またしてもこの話は無になるかも知れないと自分に腹をたてる。

 林の中で過去の賭け試合の負けの恨みを晴らそうと、束になってかかる十人ほどの刺客と戦う主人公の強さは、ものすごい。
 「椿三十郎」のシーンを思い出させる。

 宿はいろんな人の泊まる宿。旅芸人やら物売りやら、主人公の奥さんは「みんな貧しいけれど、暖かい人ばかりですね」と主人公とうなずきあう。

 これもテレビでよく観ていた画家の30分特集の、その日は「ルノワール」だった。
 彼が都会生活時代のレストランでの想い出を話している。
「1階では、みんな貧しい労働者ばかりが食事していた。しかし、そこはいつも賑やかで笑い声が絶えなかった。2階では、暮らしにゆとりのある人たちが食事していて、少し会話が聴こえた。3階では、上流階級のお金持ち達が食事していた。そこは死んだように無言と悲しみの場所だった」

 ところで奥さんと主人公の会話は、なんと丁寧語なんだ!!
 「今帰りました」「お帰りなさいませ」・・・。
 あんまりきれいな会話なので現代人のワタシなんか、ここに書こうと思っても忘れちゃうぐらいだ。ちよっと大袈裟に言うとカルチャーショックみたいな感じだ。

 翌日諦めて宿を発とうとするふたり。そこへ城からの使いがくる。
 昨日の無礼は大目に観るが、過去の賭け試合が発覚した以上、やはりお勤めまかりならんという話。
 送別の心差しを渡されても断ろうとする主人公の隣に奥さんが出てきてまっすぐに相手の眼を見て言う。
「こころよくお受け取り致します。私も賭け試合だけは止めてほしいと、常々思ってきましたけれど、考えが変わりました。主人にはお好きなだけ賭け試合をしていただきとう思っております。困っている方を助けようとしてしたことでございます。人は何をしたか・・ではなく何のためにしたか、だと思うようになりました。そちらのでくのぼうにはお分かりにならないことだと思いますが」

 また旅に出るふたり。奥さんが先きに歩いて主人公は10メートルぐらい後ろを歩いていく姿が印象的だ。
 後ろを歩いてくる主人を見つめながら、「誰よりも立つ腕を持ちながら、花を咲かせられないでいるこの人。人を押し退けてまで上に立とうとはできない人。でも、この方こそ価値のある方だという気がする」と、奥さんは思う。

 清々しい景色に感嘆するふたり。
 殿様の「かならずお連れ申せ」という城からの使いの馬が走る。

 話の筋を書いてしまったけれど。
 いつも思うのは、「ネタバレ」なんて心配は、おどかすだけのストーリーのヤワなものにのみ配慮すべきだろう。
Tracked from 映画のせかい at 2005-02-11 20:12
タイトル : 雨あがる #152
2000年 日本 91分 亨保時代を舞台に武芸の達人とその妻が旅の途中で大雨で立ち寄った宿場町での出来事をゆっくりとしたテンポで描く。ゆっくりといっても退屈するわけじゃなし、とても心地よい時間だ。寺尾聰の台詞回しがすんなりと耳に入ってくる。 雨で逗留し、雨が上がって次の町へ旅立つまでの数日間の話。主人公が居合わせた町の喧嘩を止めるところをたまたま通りかかった城主が見ていた。剣術の腕を買われた主人公、剣術指南番を持ちかけられる。御前試合でもついつい城主をも投げ飛ばしてしまう失態も見せるが、その腕前を...... more
Commented by 映画のせかいマスター at 2005-02-11 20:18 x
TBありがとうございました。そしてはじめまして。blog読ませていただきました。深い考察で、内容の濃い記事が多いですね。参考になります。これからも勉強に来ますね。では!
Commented by past_light at 2005-02-12 18:58
映画のせかいマスターさん、コメント残していただいてありがとうございます。

こちらはトラバッちゃって失礼してしまいました。
またそちらの豊富なコンテンツを読ませていただきたいと思います。また伺いますので、これらかもよろしくお願いします。
by past_light | 2005-02-10 20:02 | ■主に映画の話題 | Trackback(1) | Comments(2)

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