独創的な自伝スタイル
2009年 09月 30日

著者が写真家でもあるから、このようなスタイルの本が自らだけの力で作れる、というのは本当にうらやましく思う人も多いだろう。
見開きの写真と、見開きでひとつのエピソードが、少年期の一番いわば世間的には辛い記憶から語られはじめる。
そこには少年期特有の、淡くとも露なエロティシズムがまといつくような、やるせない繊細な想いがこちらにも共有される。同時に著者の根幹にあるかの骨太の生命力。
各エピソードが連なり、記憶が次々と後を追って鮮明に物語られる。
湯の靄にかすむ鉄輪の町の情景とが重なって、一つの短いエピソードに、読み手の中にもやりと映像が構築されていくのがわかる。
拾った猫「次春」が、少年を親と思うか、常に後を追う姿が切なくもユーモアをもって目に浮かび、最終章の少年の旅立つバス停まで、映像が浮かんで仕方がなかった。