だいじょうぶマイフレンド

梅雨のあいまの紫陽花の咲くころ。

久しぶりに晴れた午後。
しかしぼくの心模様は晴れ間だとはいいがたい、そういう午後だ。
自転車でちょっとはなれた公園まで行った帰りのこと。
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せまい川ぞいの通路で、前をいく老女の足どりが見えた。
ぼくは自転車を降りて、彼女がつぎの橋のあるところに行きつくまで、追いつくのを遠慮しようと思った。

しかし、老女の足どりはおそく、ときどき立ち止まり川を眺めたりしている。
ぼくは思い直して、間を抜けられるだろうと思うすこし広い道幅にたどりついたら追いこさせてもらおうと思った。

後ろからそろりそろりと近づいたつもりだった。
老女の先を行く老人がいることに気づいたのはそのときだ。

「ほらほら」
と、こまった顔で老女を急かした。
老女は驚いたようによろけながら後ろをふりかえり、
ぼくが通るための隙き間をあけてくれた。

老女はすぐに痴呆の症状がある人なのだとわかった。
隣をすり抜けるように追いこす時にぼくは「すみません」と言った。
その時ぼくの腕を老女は捕った。

「あげる」

老女はうすむらさきの紫陽花を側からちぎってぼくの前に差し出した。
一瞬、ぼくは前にいる老人を見た。
老人は苦笑いをして、やっぱりこまったように老女をやさしく見つめていた。

「あ、ありがとうございます」
ぼくは受けとった。
そのときはじめて老女の眼をまっすぐに見た。

ぼくはハッとした。
老女とは思えないうつくしく少女のような、そして官能的な瞳があった。
この世ではない、どこかからかみつめられているような。

老女は「よしよし、だいじょうぶ」とでもいうかのように、
そんなふうにぼくの腕を軽く叩いた。
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Commented by acoyo at 2004-11-24 19:47
私はねー、美少女でもなかったし美女でもないので、もうこうなったら、「かわくてセクシーなおばあちゃん」を目指しております。
しかし、それには全人生かけての元手がいりますので、どうなることやら(笑)。がんばるぞー。
何となくその老婦人に岸恵子を考えてしまいました。彼女が紫陽花が一番好きだと書いていたからかもしれません。
Commented by past_light at 2004-11-24 20:55
>かわくてセクシーなおばあちゃん、というのは充分すぎだし、贅沢な感じもしなくもないでしょう。
男性にとって美女と、可愛くてセクシー、の選択があるとすれば永遠の葛藤と悩みでしょう。おおげさかな。

岸恵子ですか、なるほど。なんとなく向田邦子のドラマのシーンと言えそうだ。

しかし、いつか話したい話でしたが、今頃になりました(笑)。
by past_light | 2004-11-23 03:01 | ■Column Past Light | Trackback | Comments(2)

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