2007年 04月 10日 ( 1 )

聴く力

 今は残念ながら病床にある河合隼雄さん、それと立花隆さん、谷川俊太郎さんの三人の対話の講演の記録が「読む力。聴く力」という本にあり、それは読んでいて三者三様の個性が楽しい。
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 河合さんの仕事は、「聴く」ということでは実にプロフェッショナルなものを感じさせるが、それはいわゆる常識的に考えての仕事人というイメージとは次元を大きく異にするものだ。たとえばいわゆる、よく人の話を聞いてあげる、とか、親身に聞く、とか、そういう表現では語れないし、まずそうイメージしては誤解の元だろう。
 河合さんの言葉で言うと、「ぼーっと」聴く、ただ聴いている、しかしそれは話だけ聴いているんじゃなくて、いうなら、その人を聴いている、自らの身体ごと聴いている、・・とでもいう感じだろう。ぼーっと、と表現する中身はエネルギーのいる聴き方だということだ。

 河合さんの話の中にクライアントとの経験談があり、それはなんともこころに残る話なので、とりあえず紹介しておきたい。

 その男性は、ものすごくこわい父親に苦しめられた過去を持つ人で、真冬に裸で外に放り出されたことなど、どんなに辛かったかを、河合さんに話す。
 河合さんが黙って聴いていると、その人はものすごく怒り出して「先生ほど冷たい人はいない。これだけ悲しい話をしているのに先生は涙ひとつこぼさないではないですか」と言った。
 河合さんが「涙は出るときは出るし、出ないときは出んで」と言ったら、激怒してを罵倒し始めた。さんざん罵倒した後で「ちょっと休ませていただきます」と、そこに寝てしまったという。
 暫くしてぱっと目を覚まして本当に晴れ晴れとした顔で起きて来て、「私は目上の人を怒ったのは、これが生まれて初めてです。本当にスッキリしました」と言われたという。
 そのとき河合さんは、涙がばーっと出て来たという。

 河合さんは、いわば結果的にその人の父親の身代わりで聴いている。話を聴いているうちに、後で考えれば 冷たい父親に完璧になっている。だから向こうも怒れる。
 河合さんは彼が怒っている間は「なに言うとんねん」と思っていた。で、「初めてです」と言われたときに涙が「ばーっと」出て来た。

「自分でも不思議なんです。自分でやろうとしているのではなく、そういうのがいろいろ自然に起こるんです。自然に起こるということはものすごく大事です」

 もうひとつ次にある話は、相手は一生懸命相談する人で、河合さんもいつも体調整えて聴くのだが、なぜかすぐに眠くなってくる。相手の話の内容はちゃんとしているし、ワケがわからない。それでとうとう正直に「本当に申し訳ないけど、あなたの話を聴いていると僕はむちゃくちゃ眠くなるんです」と言った。

 その人はこう言ったという。
 「すみません。一番大事なことは言ってません」。
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by past_light | 2007-04-10 21:04 | ■Column Past Light | Trackback | Comments(0)

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