太陽は、ぼくの瞳・・内から内へしか伝わらない愛

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 『運動靴と赤い金魚』の監督の、次の作に当たるこの映画を、ぼくは観終わるまでその映画だと100%の確信なく観ていた。
 というのも、日曜日の午後のTVにチャンネルをたまたま合わせて、イラン映画らしきこの映画を見始めたのが、トップクレジットタイトルから多分10分ほど経っていたからだ。

 盲目の少年が、しつこく近寄って来る猫を追い払う。木にようやくよじ登った少年は、地面に落ちて誰の手も借りなければ死を待つだけであっただろう鳥の雛を、手探りで見つけた鳥の巣に、そっと返してあげる。
 それは鳥にとっては神の手とふさわしくも見えることだろう。少年の手のひらと指先が、巣のなかの雛たちを確かめるようにやさしく撫でる。

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 この映画には、石や植物の輪郭をたどる指先、成長した妹の顔を確かめる手、そして手のひらから手のひらへと触れ合いながら物が渡されていくという感覚・触覚による対話が細かに描かれている。
 それはあえて視覚によっては叶わないからからこその、内部の目でのみ確認される相互の親愛を呼び起こすような情景でもあるように感じられる。

 ぼくは一時、よく池を泳ぐ水鳥をただただ眺めていたことがある。鳥の羽、そして鳥の首からくちばしに、ただただ注ぐ自らの「視線」が、「触覚」と非常に近いものに感じられる瞬間があることに気がついたことが、そのころある。
 考えてみれば視覚も触覚もともに、心の騒音を排したその沈黙のなかでしか、対象から深く感じ取り、読み取ることはできないという点では同じなのだ。

 視線に入ることと、視線を注ぐ(見つめる)ことは、同じ「見える」ということであっても、かなり違う意味を持つことなのだ。
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少年(モハマド)は盲目のために偏見にさらされがちである。
 祖母や妹たちの待つ家に、盲学校から夏休みで連れて帰ったモハマドを、父親は愛してはいながらも、それを怖れて家族の中に閉じ込めたがる。
 また念願の来たる自身の再婚のために(再婚に不利になるという思いで)、モハマドを、自分の人生からなんとか、しかるべき落ち着き場所に早急に片付けたいという思いにも襲われ、葛藤している。モハマドのためだと言いつつ、モハマドの祖母である母に「自分のためだろう」と冷たい視線を投げかけられる。
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 だからと言って、けしてこの父親を責めるようにはこの映画は描かれていない。
 むしろ終りまで観た観客は、描かれる厳しい現実と、父親の人生に折に触れ現れる不吉なシンボルに案内されるようなその後の不運な展開に、同情をも禁じ得ないだろう。

 やがて最大の悲劇と試練が二人を最後に襲うが、この物語は、父親が、もうモハマドを全的に、徹底して愛することへの紛れない転換点として用意された、聖書の中の寓話(この場合イスラムのであろう)のようであったことに観客は気づかされるだろう。 言わば、けして途中で観ることをやめてはいけない映画である。

 「誰も目の見えない人の方が好きだ、と先生は言った。それならなぜ神様を見えなくさせるの? 先生は神様には姿がない、君たちは手で見るって・・」そう言って泣いていた少年はついに神を見たのか・・触れたのか・・。

 前作から比較すれば、やや運命的で悲劇性が強い印象を感じる所もあるけれど、だからこそともいうべきか、美しい自然の映像のなかで静かに語られるこの物語が、深い神話的印象をも残す--愛を現した--のは忘れてはならないだろう。

●原題”Color of God”(という意味のアラビア語)に込めた思いについて、監督はこう語っている。
 イスラム教の”コーラン”にある言葉で、アラビア語の直訳で”神の色”というタイトルをつけました。
 私たちが健全な人間であれば、皆、神様が望んだ色に染まることができるわけです。逆に人間が健全でなければ、神の色は薄くなると言われています。
●また出演した盲目の子どもたちはどのようにして映画を見たのでしょうか?という質問に。
 盲人センターで2回の上映会を行いました。上映前にシノプシスを説明し、台詞や音のない動作だけの場面では、私が隣で説明しました。映画の上映が終わった後、彼らは「とても素敵な映画だった」「とても美しい映画だった」と言いました。
 目が見えないのにどうやって”美しい”と分かったのか、不思議に思われるかもしれませんが、彼らは、物事が持つ深みを感じて、そこから”素敵”とか”美しい”とかを判断しているのです。・・。

監督・脚本 マジット・マジディ(1999年/イラン/カラー/1時間30分) カナダ・モントリオール国際映画祭グランプリ受賞
 (2001.11.7)
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Commented by acoyo at 2004-11-15 01:28
私、こっちは観ていませんでした。
「運動靴と金魚」は書きたいことありすぎてパスでした(藁)。
こっちもレンタル屋で探してみます。
Commented by past_light at 2004-11-15 21:18
パス、の中身にはいろんな思いがあるのでしょうね。(笑)

ぼくはある種の映画を美化し過ぎる傾向がありますので、あしからず。
by past_light | 2004-11-14 17:49 | ■主に映画の話題 | Trackback | Comments(2)

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