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市川崑監督のりっぱさ
 市川監督が亡くなったと突然ニュースの字幕に「えっ」とおもう。
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 九十を超えていたとはいえ、なんだか、まだひょっと今年あたりも新作があらわれそうな人だった。
 新藤兼人さんもすごいが、市川崑さんもそうとうすごい監督で、・・といったって、昔から馴染んだこの名匠の作品に、リアルタイムで触れたものにしかなかなか伝わらないかも知れない。
 その名の存在を忘れる間もなく、コンスタントに映画を世の中に登場させていた人だ。「ビルマの竪琴」「野火」などの名作もあるが、同時に軽くて楽しい映画も多い。ぼくは日本のニューシネマ、ロードムービーの傑作だったと思う「股旅」などは当時、本当に惚れ込んでいた。これは谷川俊太郎さんがシナリオに参加していた作品でもあった。
 中期から後期に位置するか「細雪」なども、さほど高予算とは感じられない画面だったけれど、女優たちがまさに市川さんのいわば優れた陶器の作品の中に美しく美味しく贅沢に盛られて、味わいのある軽さとでもいいたい風流を獲得していた。
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 天性の映画・映像センスを、もうたまらなくデリシャスに味合わせてくれた。その若々しくみずみずしくもある感覚。それは、観客動員数を満足すらさせる娯楽映画「金田一シリーズ」でもデリシャスだった。
 いやそれはむしろ、娯楽映画であるからこそ、悠々と、その持ち前のセンスを、職人的に、いわば優れた映画デザインとでも言いたくなるスタイル。日本にありがちな、べたべたした湿度を振払ったような、その画面の切れ味美味しいカット割り、間、役者の表情を挿むタイミング、色彩感覚、空気感、そしてなんといっても、映画の始まりのタイトルから出演者の名前が流れる字幕。それが太明朝または太ゴシックでばっちり画面にレイアウトされ映り出す、それがすでにワクワクさせる時間だった。

 かの記録映画「東京オリンピック」は、小学校で引率されて町の映画館を貸し切りで鑑賞したが、その経験は強烈だった。子供の目にもその監督の想像力、独創性はよく伝わった。あの暗闇のなか、その色彩と映像と沈黙の音に、ぼくは興奮し続けていた。筋肉の躍動するスローモーションや、アベベ選手の黙々と走る長回しの、粒子の荒いフィルムが映るスクリーンに目を釘付けにした。
 子供の頃のことだから、後になって知ったことだが、「賛否両論」と巷の大人の間ではわかれていたという。「国民映画だから記録映画らしくしろ」みたいな阿呆な意見があったという。それを知って、あの映画を理解しないなんてよほどのバカだろうとしか思えなかった。案の定、政治の世界より国民意識レベルが先に行くことが多いように、それは未だにそうであるだろうか。多くの日本人は、市川監督の、この世界に紹介される独創的な記録映画を喜んだ。

 市川監督は晩年、「ぼくは映画の職人」を極めたい。という目標をお持ちだったという。その老境ですら、映画づくりに関心を失わない監督の言う「職人」の意味は、深いと感じた。

 と、話は尽きないが、ぼくにとっては創作者として「りっぱな」、大好きな市川監督の御冥福をお祈りします。
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by past_light | 2008-02-14 01:27 | ■主に映画の話題 | Trackback | Comments(4)
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Commented by falanx at 2008-02-14 12:05 x
長く仕事を続けられる創作者こそがいちばんなんだと、あらためてそんな感慨を覚えました。
それにいろんなことをやってくれた。
僕が記憶しているのは、テレビの「木枯らし紋次郎」の制作に関わっていたこと。監修者であり、また実際に数作で演出をしていた。
紋次郎には「股旅」とどこか重なるようなイメージもあったような気がする。
当時、僕はあの番組が好きで、別のチャンネルで同時刻に緒形拳が主役を演じていた「必殺仕掛人」も強力だったのですが、僕は断然「木枯らし紋次郎」派でした(笑)。
その紋次郎に緑魔子が出演していた話があって、なんとなく記憶しているのですが、去年、NHKの大河ドラマを観ていたら、その緑魔子が老婆の役で出ているじゃないですか。
びっくりしてしまいました(笑)。
Commented by のら at 2008-02-14 23:47 x
「スローモーション」、
わたしも子供のころ、学校の「講堂」と呼ばれてた
部屋の映画で「東京オリンピック」を観たと記憶します。
その記憶にはあの陸上選手のスローモーションの場面しかありません。
それだけ鮮烈だったんだと思います。
Commented by Past Light at 2008-02-15 01:55 x
falanx さん、「木枯らし紋次郎」、ぼくはその頃テレビを観ていない時期だったので、後になって何本かを観ています。
とても好きなのは言うに及ばないですが、そうそうあのテイストは「股旅」にとても共通していました。
主演の中村さんの紋次郎がとても好きです。
そういえば、ぼくが好きな時代劇の主役は、どれもかなりのアウトロー、個性派でしたね。
丹下佐善とか、子連れ狼とか・・それから勝さんの座頭市。握り飯をむさぼる動作と表情は、ぼくの得意な物まねです(笑)。

緑魔子さんという名前も懐かしいですね。うわさではフラメンコの達人になられたようですね。老婆か妖艶な老婆でしょうか(笑)。
Commented by Past Light at 2008-02-15 01:59 x
のらさん、のらさんは少し年下だから(笑)、低学年だったでしょう。
それでも焼き付いているんですね。
情操教育とか言いますけれど、それより純粋にある種芸術性って、頭で解るとか理屈じゃないから、何か空気のように伝わる力を持っているんですね。