いつか読書する日

 映された背景の景色に見覚えがあると思ったら、長崎を舞台にしていた。
 それでも、作者の意図により架空の地方都市という設定で、禁欲的に風景は使われている。懐かしい者にはもったいないとも思うけれど、そういう意図は正しいと言える映画だった。
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 田中裕子は、この映画で主演女優賞をとっているけれど、テレビで向田邦子のドラマなどでもたいへんな存在感で演じているから、特筆するほどの演技かどうかは別にしても、彼女の下記の話に現れているような、なんとも演技とは違う次元で、田中裕子という女優の魅力がたっぷりに味わえた。

 『2004年の3月中旬から4月中旬にかけて行なわれた撮影に先駆け、主演の田中裕子は実際に長崎の町で牛乳配達の修行に励んだ。

 「撮影に入ってからも、ほとんど毎日のように朝3時に起きて4時にメイクを開始して、5時に牛乳配達のスタートです。今日も石段を駆け登るところから1日が始まりました。体力勝負で、体力だけ使っているような感じがするんですけれど、撮影が始まって2週間ぐらいが過ぎてわかってきたんですが、体力を使うことで余計な力が抜けてきた気がするんです。ハアハア言いながら階段を登るんですが、その時に運動靴がすれる音だったり、牛乳瓶が鳴る音だったり、あるいは夜が明けてくる色だったり、風だったり、そうしたものが体を抜けていって、その分、体が軽くなっていく感じがするんです。せつない物語ではあるんですけれど、そのせいで重苦しさは抜けていると思うし、私が感じた音や色や風が映像に映るといいなと思っています。それにちょうど桜の花がはらはらと散る時期になって、だいぶ暖かくなったのも嬉しいですね。そのぶん日の出も早まってきて、スタート時間がどんどん早くなってるんですけれど」(田中裕子)』


 大人の因縁もある秘められた恋心の、長い年月の熟成が切ないが、相手役の岸部一徳もとても好きな配役で、ふたりのクライマックスともいうべきラブシーン、というかなんというか、「いままでしたかったことぜんぶして」というような、五十代を迎えた男女の高まりの不器用さと露さが、とっても切なくて悲しくて、ハレンチで、嬉しくて(笑)、ふたりのシルエットが愛おしくて文句なしにすてきでした。

 大人というのは、少年少女の頃の遂げられない思いを持ち続けたり、禁じたり、しちゃったらどうしたって哀しいです。でもそいつは美しくハレンチで、セクシーなんだ。
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Commented by くぅ at 2007-11-25 17:17 x
素敵な映画でしたよね。
私は叔母夫婦の愛情がとても心にしみました。
そして、田中裕子さんの演じる主人公の、ある意味執念のような、嫌がらせのような、そんな愛情も、あり得るかどうかは別として素敵でした。
岸部さんの奥さんの行動というか愛情の示し方も、私の主人は理解できないと言っていましたが、私には何となく分かりました。
いろんな愛の形にしんみりしたので、自分でもブログで何か書きたかったんですが、他の映画に憤ってるうちになんだか書きそびれちゃってました(笑)
Commented by Past Light at 2007-11-25 19:40 x
くぅ さん、こんばんは。
御覧でしたか。なんだか落ち着いて観れる映画でしたね。
物語の背景には、もしかしたら少し強引かな、と思う密度があり過ぎる感じでしたけれど、物語とは真の意味で人間のファンタジーなのだろうと思いました。
叔母夫婦の関係、それもとくに感じられましたね。描き方にも工夫のあるユーモアにこだわっていて、ぼくはそれは好感持てました。

なんというか、大人の愛ッて、「いろんな愛の形」の成熟の妙味を知っていくことかも知れません(笑)。まだわたしゃ、子供だ(笑)。
Commented by falanx at 2007-11-26 23:09 x
それって最近、NHKの衛星で放送されませんでしたか。
僕は、観たくって、観たくって、ずっと楽しみにしてたけど、結局、観れずじまいでした。

田中裕子、岸部一徳、僕も好きな俳優さんです。
以前、吉永小百合主演の田中絹代の映画を観た時に、サユリストたちには申し訳ないけど、田中つながりで主演が田中裕子だったらよかったのにと思いました。
いまは沢田研二の奥さん稼業で多忙なのでは(笑)。僕は個人的には、もっとすごい演技のできる女優さんだと考えている。
岸部一徳もいいですね。
彼が役者を始めた頃は、あの借金王の弟の方が個性的な感じがして、僕は岸部一徳の真価を見抜けなかったボンクラだったのですが、あれよあれよって言ってる間にいい役者さんになってしまった。さりげない演技だけど深いところがあると思う。

映画の結末がどうなのか知りたい。
NHKのことだからまた衛星で放送されるとは思うが、観られなくて残念だった。
Commented by past_light at 2007-11-27 01:38
falanx さん、こんばんは。
そうです。BSでやっていたやつです。あと、岩井俊二監督の「花とアリス」も観たんですが、感想はまだ書いてません。あんまり少女フェロモン全開なので、無条件にカワイイから、頬染めつつ、おっさんが感想書くには難解です(笑)。

そうです、映画は沢田研二の奥さんが昔のタイガースのメンバーと浮気しているというはなしです←うそ(笑)
岸部一徳は、どんどんいい役者さんになりましたね。
小栗監督の「死の刺」では賞もとりましたが、相手役の松坂慶子とともに、とてもすばらしいですよ。こちらももし御覧でない時は候補にどうぞ。

いずれまた再放映されるでしょうから、次は見逃さないように。ぼもそういう映画がたくさんあるんですが。
by past_light | 2007-11-24 20:20 | ■主に映画の話題 | Trackback | Comments(4)

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