「山の郵便配達」 

 ■「山の郵便配達」 (原題)那山 那人 那狗 (あの山、あの人、あの犬)
          ・・・・・・・・・・・・タオの人

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 映画がはじまると、そこに浮び上がる風景に驚きます。1980年代の初頭、中国・湖南省西部の山間地帯。
 話は20年ほど前の設定のようだけど、中国には山水画の世界が永遠にあり続けてくれるんじゃないかと、目に映る景色に少しホッとします。
 でもチャン・イーモウ監督の「あの子を探して」にも感じられるように、どんどん都市部では自由市場化などで、人の内面も日本みたいにある部分西洋化されているような感じも受けるけれど、この「山の郵便配達」を観ていると、中国には「道〜タオ」がやっぱり生きているような気がして、そのおどろく風景とともに、登場する人の素朴さにも、しみじみ憧れを感じました。

 しかし気をつけないといけないのは、国というかたちのなかに住む人間の印象を、大雑把に括れないのは、ほんとうはどこでもおなじことだろうということ。どこの国も、政府、政治家というのは、堅苦しい硬直した姿のイメージしか伝わってこないので、そんなニュースばかりで知る外の国々のイメージを、なんの抵抗もなく無意識に受け入れたり許しては、人間の本来柔らかいはずの心に、とても失礼で幼稚なことだと思わないといけない。
 映画の持つひとつの大きな魅力、力は、その映像で様々な国の普通の市民のこころ、日常、ドラマに出会えること。 どこの国にもおなじように、男と女がいて、父と母と子供と、恋人たちと、・・食べて寝て、泣いて笑って、・・そういった共有している行為、人の生活の共通点があるのだという、あたりまえのことを思い出す。 それは、いつかひょんな時に、ふと忘れているとしか思えないことが、どうにもまかりとおるような気がするから・・。

 この映画も家族の話。 足で歩いて運ぶしかない山岳地区の郵便配達、長年勤め上げた父と、後継ぎとなる息子と、賢い犬との、二泊三日の徒歩によるはじめての旅、これこそ究極のロードムービーといっていいだろう。
 斬新な演出やカットなどはないが、誠実にしっかりと画面に映し出されるふたりの険しい道のり。 危険もふくむ辛さも多い山岳の道なき道・・。 息子の背にする重く、そして大切な郵便物の入ったリュック。父が長年黙々と従事したその仕事。 以前、その父に同行した上司が「こんなに辛い道だとは知らなかった。あなたに申し訳ないことをした。」と悔いたという。 息子はそんな深い実感も、さほど知らず父の仕事の引き継ぎを引き受ける。「ぼくなら二日で充分だ」と出かける前には軽い気持ちだった。

 公務につきものの出世にも無頓着に、黙々と続けたタオの人を想わせる父親は、その仕事のアドバイスに、「愚痴は言うな」「良く足元を見て歩け」「辛いがやりがいのある仕事だ」・・と言う。 下の道にバスの通るのを見て「バスならもっと早くいける、どうしてどこでもぜんぶ歩くんだ」とつい漏らしてしまう息子。「道は歩くものだ」と言う父。 多くの人(含む私)は、ちよっと自らが恥ずかしくなり赤面するかもしれない。
 恥ずかしいと言えば、この父は崖から落ちて気絶していたのを村の人に救われたことがあり、その時のことを思い出して「恥ずかしかった」と言う。 ぼくにはそれは、いわゆる自意識とはちがう無邪気な『恥ずかしさ』を思わせた。この父親の表情にはいつもそんな『優しさ』が漂っている。

 ぼくら観客には、どこまで続くのかと感嘆してしまう深い緑の木々と山々が、父と息子を包み込んだり、背景にいつも広がっている。 辿り着く配達先の、辺鄙な村々に住む山里の人々との、短いが暖かく、しかし気持ちのよい-距離-を持った交流。それは、この辛い仕事の休憩地点でもあり、触れあい互いに湧き出る泉のようでもある。

 そしてその道中で、過去にはなかった親父と息子の心の距離が急速に近づいていく。いつも留守がちな父だから、どうしても息子にあった過去の知らないがゆえの誤解とわだかまり、それが溶けていく。
 またそれは父にしてもおなじことで、青年になった息子とゆっくりと語り、背負われて川を渡り、寝床を共にし、そんな初めての息子との密接な時間なのだ。長い年月を生きた彼の仕事と、家族との想い出に出逢うことでもあった。 それはぼくらに、この映画の持っている時間感覚、胸に岩清水のように静かに染み入ってくるような感動の、その緩やかさに見事に沿っていて、しあわせな気持ちにさせる。

 そして、 映画のラストにいたるところが、きりりと締まっていて、とてもいいです。
 この映画、東京では岩波ホールで上映されたそうだが、いつも満員になっていたそうで、ともかくスクリーンで観た人はさらに幸せですね。

 1999年作品 2001年4月公開 (93分) 瀟湘電影制片廠=北京電影制片廠=湖南省郵政局 共同制作
 (原作)ポン・ヂェンミン(監督)フォ・ジェンチイ(脚色)ス・ウ

2002年記述2004年10月一部訂正。
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Commented by acoyo at 2004-10-20 19:42
えっと、これについてはまた別の機会として、
台風、大丈夫ですかあ?
Commented by past_light at 2004-10-20 20:02
>えっと、これについてはまた別の機会として、
ということですから、レスも別の機会に(笑)。

台風はまだまだこれからですが、そつらはそろそろ過ぎ去った頃ですか。
次つぎと来る台風はウチの近くの公園のネコにとっても気の毒です。
Commented by peco* at 2005-01-31 11:27 x
TBありがとうございました。
すごく文章がしっかりされていらっしゃるのでちょっと迷いましたが
私の方からもTB返しさせていただきました。

地味ですがちょっとした場面で感動させられることの多い
映画館で観たかったと思わされる作品でしたね。
Commented by past_light at 2005-01-31 19:13
peco*さん、TBとコメント、ありがとうございます。
気軽にトラバが可能なのがいいですね。ブログって。

そうですね、地味でしたけど、時間の流れは自然で、映画のゆったりした感覚とがしみじみしていて感動も大袈裟でなくてステキでした。
年末にテレビでやったんですね。知らなかったなあ、年末に相応しい映画です。
Commented by bi_ka at 2005-01-31 23:48
こんばんは。ご挨拶が遅れてしまいましたが、TBありがとうございました!
とても書き込まれた文章で、読んでいると映画のゆったりとした美しい映像が浮かんで来ました。
河渡りで父を背負うエピソードが一番好きです(^^)
Commented by past_light at 2005-02-01 19:15
bi_kaさん、コメントありがとうございます。

あの広々とした風景は、観た後にもずっと網膜に残っている感じです。
川を渡るシーンのオヤジさんの表情もよかったですね。
Commented by ちびっこはるか at 2005-02-09 00:37 x
past_lightさん、TB & コメントありがとうございます。
この映画ホント素敵でしたね!淡々としたお話なのにとっても心に染み入りました。淡々としてるから余計いいのかな?
私はお父さんと次男坊に惚れましたね♪
Commented by past_light at 2005-02-10 01:30
ちびっこはるかさん、
T.Bありがとうございました。

心にしみる風景と人々、こちらも忘れられない旅をした感じですね。

お父さんの役者さんの表情も、次男坊の存在も心に残ります。
Commented by bigflag at 2005-02-13 01:10
はじまして、こんばんわ。TBさせて頂きました。
「あの子を探して」は、まだ見ていないのですが、ここのレビューを
読ませていただいて、見てみたくなりました。
(もちろん「山の郵便配達」の影響もありますが)
Commented by past_light at 2005-02-13 01:56
bigflagさん、トラバとコメントありがとうございました。
「あの子を探して」もここで紹介してますが、どうぞぜひ。
「初恋のきた道」も素敵な映画ですよ。チャン・ツイィーが少しふっくらしている時で、彼女にとっては貴重なメモリアルデビューの映像だとも思いますし。

今後ともよろしくお願いします。
by past_light | 2004-10-20 02:17 | ■主に映画の話題 | Trackback(9) | Comments(10)

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