「過去のない男 」アキ・カウリスマキ

 過去がない男にはこれからの未来しかない。誰しもにあたりまえのようだが。

 しかし、実は過去がないように生きることはむずかしいことだ。
過去とは自分への条件づけとして自己イメージの枷にさえなる。が、人は過去に頼り、自らのアイデンティティ、プライドとしていつまでも過去の人生にぶら下がりがちだ。そんな過去を持つことが幸福かどうかはわからないのがなぜかといえば、人生が前にしか進まないせいだ。
老人ホームで、自らの過去のプライドによって、かえって人との間に居場所をなくす人もいるという。
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 コンテナハウスに辛うじて住処を見つけ、救世軍の配給食にホッとする生活であれ、人が生存する際に寄りかかり連帯するのはやはり人であり、小さくみえてもささやかな愛だ。

 男は冒頭から災難により記憶を失う。心電図では死んだはずの男がむっくり立ち上がる。それほどでなくては人は過去から訣別できないのか。過去を失った男は、捨て猫が拾われるように無垢な善意に助けられ、「前にしか進まない」人生を新しく取り戻す。

 救世軍に勤めるイルマの人生は、就寝のための音楽がロックであるように、長きにわたり静かすぎるほどの過去なのだろう。語るべき過去などない。それもまたどうであれ、前にしか進まない人生だ。

 カウリスマキは、ここにお安い感傷はなく、最低限の生活の日々を生きる人々の姿を軽快にすら見せる。ゴミ箱を住処とする友人さえ心配するのはゴミが増え過ぎて寝場所を狭くされることだ。
 カウリスマキはけして絶望を見せない。それは社会の無慈悲なシステムが絶望を強いるからだ。しかし、人はシステムの奴隷、僕ではなく、生を謳歌すべきために生まれた人類だからなのだ。

 さすがに、ブレッソンを思わせる無表情でミニマルな映画スタイルとはいえ、いつもの生活者の心を歌う音楽が彩る独特な世界だ。彼が尊敬すると言うそのブレッソンとの決定的な相違をいうなら、やはりカウリスマキ色に彩られ、野良猫が膝に抱かれて感じるような、じわじわとした内部からの温もりだろう。

Tendernessの「カウリスマキ特集」ページ、kitayajinさんの詳細なレビュー記事は下記にあります。
★カウリスマキ特集ページへリンク
★リンク-kitayajinさんの新作紹介の記事
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Commented by コウ at 2006-11-19 00:38 x
pastさんこんばんは。zoo zoo seeの作品群拝見させていただきました。ハルミサンのセンス抜群ですよね!(感動)ハルミサンは多作型のお方なのでしょうか?出来上がったらハイ次みたいな感じですか?それとも少しずつなのでしょうか?とにかくセンスが素晴らしいです。女性ならではのものですよね。pastサンはネコ公園いってらっしゃいますか?ウチの2匹目はでかくなってきましたよ~!
Commented by past_light at 2006-11-19 02:09
コウさん、御覧頂いてありがとう。というのもじゃ、だいたいやね〜、パソコンで作るもの書くものは、御存じパストライトが担当してますからねぇ(笑)。

多作型かどうかとお尋ねですが、企業秘密でして・・じゃなくて、ともに生活秘密ですね(笑)。
女性ならでは、・・それはまちかいなくたしかです(笑)。

あちらにも書き込みをありがとうございます。
なにぶん御返答を書き込むのは、事情でわたくしですが(笑)、本人も読んでおります。お誉め頂いてありがとうございます。

ネコは何人にも毎日無事にお会いしております(笑)。
寒くなって来ましたから、野良生活はそのへんがちょっとたいへんですね。
コウさんのネコくんたちも室内活動が増えそうでしょうか。
by past_light | 2006-11-09 20:44 | ■主に映画の話題 | Trackback | Comments(2)

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