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「至福のとき」 チャン・イーモウ
 もしかしたら、多くの人がこの映画にチャップリンの「街の灯」に似た感想を持ったかもしれない。それからぼくは映画を観ていて連想したのはカウリスマキの映画でもあった。社会的には弱き者たちの、それゆえの連帯感と無垢なる至福。

wave 目の不自由な少女ウー・イン(ドン・ジエ)と、運命的にこころ通わす、さえない中年男のチャオ(チャオ・ベンシャン)。
 度重ねるお見合いでもなかなか結婚できないでいる。実はリストラされて失業中、一介の労働者の中年男チャオ。しかし結婚したい一心で、悪気はないが身勝手な軽いつもりのウソを重ねて行く。最初はそれこそ身勝手な御都合あわせのウソだった。
 が、徐々に見合い相手が厄介者扱いしている前夫の連れ子である目の不自由な少女ウー・インを、成行きとはいえ助けたいだけの思いで、今度はつぶれた工場の仲間と一緒にウソを重ねることになる。だが、それによって少女は今まで人と関わることで味わったことのない至福のときを過ごす。

 「あの子を探して」「初恋のきた道」に比較すれば、ずいぶんと映画として地味な印象も与えるだろう。大きく盛り上がるストーリーが用意されているわけでもない。
 それは近代化が進む中国の都市、大連での話で、「あの子を探して」にも感じたが、都会人たちは経済成長する激動の中国のなかで、自己責任の生活力を試され、なんとなく生存競争もすごい感じで、人の心もドライに流れがちのようだ。

 経済的な格差ゆえと言われる、結婚率の低くなった若年層の話題が出ている日本も重なって見えるのが興味深い。これはもちろん短絡的に格差とか単純なことにすべて帰結するものではないと思うけれど、一般的には相当現実的な話しだろう。

 経済格差広がるかたちの社会。そこでは、チャン・イーモウは意図したように社会的に取り残されて行くような人たちの暮しをひときわ注視しているようでもあり、それがカウリスマキの映画を思い起こさせるところのことだろうとも思う。
 が、カウリスマキのように徹底した連帯感を持って、というかどうかは別だ。チャン・イーモウにはその後の「英雄(Hero)」などがあるように、映画のつくり手としては野心的であり、商業的に成功することも視野に入れていて、それはまたどこか器用に見えるバランス感覚のある作家で、また作品の良し悪しとは別の話にもなるだろう。

 当初コメディとして語られたかのようなこの物語りは、目の不自由な少女ウー・インが、自ら現代中国の都市の荒野へ、「至福のとき」の温もりだけを頼りと勇気として旅立つ姿で終るが、それは中年男チャオの物語の行く末と同じく、不確実であり、けしてハピ−エンドとは受け取れないものでもある。
 しかし、たとえばカウリスマキの描く、滅びゆく世界の生活者の人々の(肝心なものは目には見えない)愛と勇気は、現代社会の狼たちの、かたちのある勇気とはまた別種の、別次元の普遍的なものなのだと思われる。

 姿を消した少女が残した「至福のとき」の感謝を語るテープの声に、重ねて読み上げる少女への手紙は、チャップリンの「独裁者」で、最後に切々と床屋が語る、世界のどこかしこに存在する、勇気と希望に飢える生活者へのメッセージとさえ重なって聞こえるものでもある。               (至福のとき (2001/中国))

映画のオフィシャルサイト
http://www.foxjapan.com/movies/happytimes/index.html
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by past_light | 2006-08-17 17:47 | ■主に映画の話題 | Trackback | Comments(8)
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Commented by sentence2307 at 2006-08-18 00:13
TB ありがとうございました。
「至福のとき」は、人々の善意は、施される側にとって、必ずしも善意で在り続けることにはならないという説得力のあるシンプルな映画だったと思います。
ラストで街に出て行く彼女を見ながら「どうなってしまうんだろう」という気持ちは、「禁じられた遊び」のラストを思い起こさせられてしまいました。
Commented by past_light at 2006-08-18 01:28
sentence2307さん、御訪問頂いてありがとうございます。
お書きになられているように、少女が自ら旅立つところが厳しいけれど、よかったです。
コメント頂いてありがとうございます。
また、ブログの方、ときどき拝読させて頂きます。
Commented by sentence2307 at 2006-08-19 17:56
こちらこそ、よろしくお願いします。
これからも、ちょくちょくお邪魔させていただきますね。
Commented by past_light at 2006-08-20 02:01
ありがとうございます。
sentence2307さんのところは読みごたえのあるブロクですね。
ブックマークに入れさせて頂きました。
こちらこそよろしくお願いします。
Commented by 文コウ at 2006-08-25 19:42 x
pastさん、こんばんは。8月も終わりですね!実は今日予定よりも早く、例のニャンゾウが我が家にきました。つかず離れずの位置にいつもいます(笑)私が横たわると必ず、首元へ来て、ゴロゴロいいながら寝ます。私の首にアゴをかけたり、腕にアゴをかけたり、とにかく甘えん坊でございます(笑)下手にトイレにいきましても、階段の上から泣いて呼んでいる次第であり、身動き取れません~(笑)今年最高の贈り物であります家族が増えましたヨ~。。
Commented by past_light at 2006-08-27 01:26
文コウさん、毎年のことながら夏は早足ですね。
猫、ついに家族になりましたか。
おめでとうございます。

甘えん坊みたいですね。そのぶんすごく可愛くなりますけど、文コウさんもご体験されているように、飼い初めって、けっこう人間の方も疲れがたまったりします(笑)。
とにかく互いにうまくやってください。
ブログの方も話題がにぎやかになって増えそうですね。
また覗きにいきます。
Commented by 文コウ at 2006-09-05 19:22 x
pastさん、こんばんは。装いは秋まっしぐらでございますね!またこれは両方ともキジトラでしょうか?うまい具合に枯葉作戦でございますが、pastさんがコーディネートしたのでしょうか?最高のセットでございます!ウチのキジトラも我が家に慣れ、だんだんと植民地(!?)を拡大していっております。覚えが早いです(笑)凄まじい勢力でございます。
Commented by past_light at 2006-09-07 01:50
文コウさん、こんばんは。
ちょっと秋深しな写真だったんですが、いいかと・・。
昨年も使ったものです。たぶん記事が10月か11月当たりにあると思いますよ。
そうですよ、枯れ葉を布団にしてやったんです。
それがあんまり可愛いので、写真にセッティングですね。

文コウさんちのキジトラの勢力拡大は日に日に絶大になるでしょう。(笑)
部屋のどこもこも、プリティビーム光線で焼き付くすでしょう(笑)。