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土曜日の午後

おばちゃんが日の明るい内に公園にいる。「おばちゃん、おばちゃん、なにしてるの」
おばちゃんは「鳩を放しに来た」という。
先日、猫に悪戯されて傷付いた鳩で、四、五日おばちゃんの家の部屋で段ボールに入れられていたという。
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おばちゃんは他の鳩の群れに交じらせようとその鳩を真ん中に鎮座させる。

 「しかしよく生きてたねぇ」
 「血が止まったからね」

しかし羽が傷付いた鳩はよたよたしてうまく歩けない。
見ると、鳩の足にお菓子の箱を結ぶ時に使うような金色のヒモが巻いてある。

 「こんなのつけちゃダメだよ、あぶないよ外してやりなよ」
 「見分けがつかなくなるよ」
 「つかなくてもいいじゃない」

おばちゃんは動物にやさしいけど、完全に盲目的になるので、ひとりよがりにもなる時があって、ときに困った人だといわれる。
公園の一画の猫は、おばちゃんからもらう食事で肥満傾向にあるのだ。
だいたい人の話を聞いていないので、何度いっても聞かないと呆れられてもいる。
しかし何度かしつこく説得してやっとヒモを外すことになる。

 「あら、かたっぽに引っ掛ってたんだね」
 「だから言ったでしょ、ワッカならまだしも」

ぐるぐるまきにしてあるヒモを外すと、鳩はとりあえず難無く歩けた。

この場所に鳩を放しに来たのは、猫からは安全そうな場所だからだ。

ひとりのジッチャンが「鳩に餌やるなと書いてあるだろ」と誰に向かうでもなくぶつぶつ言って通り過ぎる。
四、五日のあいだ段ボールで暮らした鳩はパン食に慣れてしまったようだ。
甚平を着たフランス人らしきオジサンが自転車で来る。
前のカゴには「とりのえさ」と書いてある大きな袋が乗っている。
アヒルを指差して、「ダニがいる」と言う。「トリダニ」。
やがて「スミマセ〜ン」と甚平の仏蘭西人は帰って行く。

今度は公園管理局の警備のオジサンも話に加わる。
七十をゆうに超えているのにものすごく元気な人。
だいたいおばちゃんが管理局に報告したら「死んでもいい」から、おばちゃんに任す。となった一件らしい。

「また襲われないか」と心配するおばちゃん。
「カラスも襲うよ」「カラスは首までチョン切っちゃって、ばらばらにする」「猫までやる」
とおばちゃんの心配の種を増やす。

池の周りを何週もして歩く中年の女性が来る。
顎を突き上げて空に顔を向けて目を閉じて歩いているようなので、いつも目立つ人だ。
その女性がおばちゃんには手をあげて挨拶をして行く。
通り過ぎる名物なヒトを見送りながら、おばちゃんは「いつも目を閉じているけど、目が見えないのかねぇ」という。
「いつも顎突き上げてねぇ」と不思議そうに警備のオジサン。
「リハビリかな」とぼく。
まあ、目は見えているからおばちゃんに挨拶したのだろうと思うが。

「あれ、いなくなった ! 」
鳩が消えている。
「ほ〜らわかんなくなった」とおばちゃん。
警備のオジサンが木の上の鳩たちの中にいるのを見つける。
「とりあえず飛べるんだ」
「じゃ、安心だ」
まあ、それで一件落着。

今日はすごいキャラぞろいだなあ、、と思いつつぼくは場を立ち去ろうとする。

自転車から振り返るぼくの目に、おばちゃんの盲目的な愛情は異様な光景となって網膜に残る。
おばちゃんは、鳩のいる木の葉っぱの上にパン屑を蒔き続けるているのだ。
Commented by ナカムラ ユエ at 2006-07-09 21:36 x
なんだか、味の濃い週末のできごとですね。極めて人間的であったころの日本映画を観ているようでした。
Commented by past_light at 2006-07-10 01:28
ナカムラ ユエさん、こんばんは。
とても的確なコメントありがとうございます。
公園には他にもいろいろ味わいの濃い人と出会いますが、プライバシーとの兼ね合いでお伝えできないことも多いかと思います。
今日も何人か猫の周りで会いました。ひとりは近くのマンションに住む男の子でしたけれど、これからは猫をもっと可愛がってくれそうです。

確かに後になると、まるで映画のシーンのような人間もようがありますね。
黒澤監督の「どですかでん」がぼくは好きなのですが、あれはドラマではなくて人間ドキュメントなのだと再確認できます。
Commented by コウ at 2006-07-12 00:01 x
pastさん、こんばんは。目をつぶって顎をつきあげるように上を見ている女性の描写・・・よく伝わります(笑)こちらにもみえますが、全国共通かもしれません(!)

PCモニターバックライト切れで見えません(泣)懐中電灯あてながら一字一字打ってますが、意外とはやくできるようになってしまいました。また新たな表現?芸?世界を構築してしまった・・・ホント攻撃的?な男です。たまには引きなさいよ~(笑)
Commented by past_light at 2006-07-13 01:21
コウさん、懐中電灯を当てて見るモニターの世界は未経験です。
問い羽化、そんなことができるんですね。(笑)

みごとな攻撃も、目を悪くしないウチに守備もなんとかした方がいいですが(笑)。
Commented by コウ at 2006-07-13 11:23 x
こんにちは。そうですよね!守備ですよね、pastさんのおっしゃられたいことは、予備の懐中電灯用電池を買っておきなさいということですよね!(なんか違う?)

懐中電灯をあてる感じはまるで、洞窟で壁を照らし、そこに描かれた壁画や暗号を解読?しているような探検気分です(笑)この探検は今週まで続きます。

来週モニターきまーす!!
Commented by past_light at 2006-07-14 02:20
コウさん
サッカーを見ているとイタリアなんてみごとな守備のみうなチームですもの。(笑)

洞くつで、暗号解読・・お買得!
夏にふさわしい冒険です。モニターは海賊の黒船か(笑)。
by past_light | 2006-07-08 20:41 | ■コラム-Past Light | Trackback | Comments(6)

過去と現在、記憶のコラム。

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