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「おまえ百まで わしゃいつまでも」
 「わたしは生きることが好きだから、生きものはみんな好きです」
 熊谷守一は「生きること」が好きだという。
 ともだちが生まれ変わる話などをしていて、「きみはどうだい、ぼくはもうこりごりだね」と言うと、「おれは何度でも生きるよ」と言う。

 写真に残るこれほどの美しい老人の顔、眼、姿はなかなかお目にかかれない、おなじく熊谷の率直な言葉にも、美しい個性が染みわたっている。
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 「わたしってしみったれですから幾つになっても命は惜しいです。命が惜しくなかったら見事なんだけど、残念だが惜しい。長く生きていたいです。どういうわけなんですかね。生きていたってたいしたことないでしょう。ここに座ってこうしているだけなんだから」

 「おまえ百まで わしゃいつまでも」と書の中に、熊谷はおちゃめに書いた。

 そんな老人が、訪ねてくる客人に大きな感銘、影響を与えているのが、いろんな人たちの文からよく伝わる。
 白州正子さんは、「たとえ一度だけでも、そういう人物にめぐり合えたことを、私は生涯の幸福だと思っていた」と書き、対話の中で、「出来ないことの面白さ」という言葉を聞き、「とたんに今まであくせく暮らしていたことが、つまらないものに見えて来た。」とも書いている。
 またある人は訪ねてそして帰る段になり、「自分はなんと素晴らしい人に会っていたことか」と思ったという。

 イーデス・ハンソンさんが熊谷守一のところに行って、語った記録がある。これが傑作なので(実は、誰とでもどこでも傑作なんだと思いますが)ところどころ抜粋。

H: そうすると、長い間同じ庭を見ていらしたわけですけど、微妙な変化はありますか。
熊谷: 時々知らない草がはえるんです。なんだろうなと考えるんですが、六年たっても何かわからない。もう三年くらいしたらわかるでしょう。気の長い話ですわ。

H : じゃ、こういうちいさい庭のなかでも、ふっと珍しいことがあったりして、退屈しませんね。
夫人 : 退屈するってことがないんですね。石ころ相手でも遊んでいます。
熊谷 : だから、わたしは監獄に入れられても、一番うまく暮らせると思うんです。(笑)
H : 話し相手がいなくても、退屈しない?
熊谷:  自分としゃべります。

H: はあ、どんなことをしゃべるんですか。
熊谷 :  いっぱいあります。いろんなものをさわるでしょう。あ、これは冷たい。これは温かい。中くらいに温かいと考えます。それから、マッチが今動いたでしょう。さっきあったのと、動かしてここに来たのとは違います。そういうのを見たり考えたりしていると、ま、忙しくってね。
H: そら忙しいよね。じゃ、一日中そんなことやって自分としゃべっているんですか。

熊谷 :  ええ、はたで見るとのんびりしているようだけども、実際はひどく忙しいんです。
H : それでは、あまり絵を描くヒマもないでしょう。
熊谷 :  そうなんですよ。

H : ・・・文化勲章あげるっていう話がありましたよね。辞退されたそうですけど、なぜですか。
熊谷: わたしは袴ってえもんが嫌いなんですよ。子供のころからきれいな着物を着せられるのがイヤなんです。無理に着せられると、泥のうえにころがって、わざと着物を汚したりした。腹が立ってしょうがないんです。
H : どうして腹が立つの?
熊谷: 自分はふだんみたいにしていたいんです。


 熊谷夫人は、ウソのつけない熊谷について、「大事に思うことがあまりに人と違っているので、一応のおつき合いで、それ以上のふれ合いにはなりにくいと思います」となんだか冷静におっしゃられている。
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by past_light | 2006-05-29 19:50 | ■Column Past Light | Trackback | Comments(4)
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Commented by zenmai at 2006-05-31 23:57 x
コラムの内容と関係ないことを書いてしまうので申し訳ないのですが、ブログのタイトルを「雨のち散歩、ときに映画」に変更しました。

5/23のコラムの「やさしさ」に関連したことですが、past_lightさんのブログのLinksに僕のブログ名を載っけてもらっていること。
僕にはありがたい。やさしさを感じた。
もうブログをやめてしまおうとも思ったのですが、たまたまこのブログサイトでLinksに僕のブログ名を見て、救われた気になった。もうすこしブログを続けるか、そんなパワーをもらった。
Commented by past_light at 2006-06-01 01:14
zenmaiさん、こんばんは。
関係なくてもいいです。もともとそういうつもりで掲示板なくしましたから(笑)。

「雨のち散歩、ときに映画」、いいタイトルですね。
さっそくリンクの方も戒名しておきます(笑)。

リンクの方、そういうお言葉を頂くのはうれしいです。でもちよっと恐縮ですよ。
ぼくは、自分で思うにかなり手前勝手な人間ですので、Tendernessなんてタイトルや、てんだねすなんてネットの名前も、そうとう厚かましいつもりでいます(^-^;。

でも、 zenmai さんがブログをお続けになられるきっかけのひとつになったとすれば、こちらこそ光栄です。
体調はいかがですか。ぼくも季節のせいもあると思いますけど、体調があまりよくありません。
まあ、おたがい歳のせいにして、ぼちぼちがんばりましょう(笑)。
Commented by coeurdefleur at 2006-06-02 12:59
こんにちは。
できないおもしろさってありますよね。
すんなり出来てしまっては おもしろくも何ともない。
好きなもの、大事に思うものが人と違うって…
私も少しそうかもしれない。
ヘンってよく言われます。
熊谷さんくらいの境地になれば言われないのでしょうけど^^;
Commented by past_light at 2006-06-03 02:42
柊さん、こんばんは。
出来ないおもしろさ、それから今考えているんですが、(笑)わからないことのおもしろさというのも。

へんなひとというのは、ときに魅力的だという呼び方の変なバージョンかもしれませんよ(笑)。
取り合えず、確信もって言えるのは、熊谷さんみたいな人間で構成される世界ですと、戦争も経済戦争も起こりません(笑)。