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「告別」 監督・大林宣彦
 ■先日の「なごり雪」。その前に大林監督はBSデジタル・ハイビジョン用の映画を撮っている。それは劇場でも上映されたそうだ。それがビデオレンタルされていた。 ハイビジョンから映画にされたもので、ビデオの粒子ではあるが、それがテレビ画面でビデオで見るわけだから、なんら違和感がなくて映像としても見やすい。

  ■「告別」というタイトルで、福永武彦を連想したが、この映画の原作は赤川次郎で、ホラー文庫の短編の話からというけれど、いわゆるホラーではないので怖がりの人は安心して欲しい。
 それがどれほど原作と一致しているのかはわからないが、異界と日常をひとつの電話ボックスがつなぐという設定で、それは山田太一さんの「異人たちとの夏」などにも近いファンタジー仕様なのだが、小説「遠くの声を捜して」だったか、そんな一人称小説的、独白的な不思議な雰囲気を持ったドラマになっている。
 しかし、かと思えばまた、現実・現在の生活者、家庭の苦しみとか暗さも、ここにないとは言えない話なのだ。

  過去と現在を交差しつつ彷徨う、峰岸徹演じる主人公の中年サラリーマン(小坂勇一)が、どうにも「なごり雪」での主人公につながるようにみえておもしろい。
 古い電話ボックスから・・つながる過去は30年前。これも「なごり雪」に近いし、そこには高校時代の親友と、思いを寄せる同級生の「幸(さち)」という名の女の子がいる。そう、幸は、「ゆき」・・とも読めるんですよね。ウチのお袋がそうだモン(笑)。 いわば、やはりある種、宿命的な三角関係の力学がここにもある。
「怪談」という意味では、過去とつながる古い電話というのは、かなりわくわくする発想で、もう物語のトーンが決定するほどのアイデアだと思う。

 ■大林さんは、自分の映画は「文学、言葉」寄り、と自覚しているという話をしていた記憶が昔あり、その頃は誰もが映像派だと勘違いしていたと思うので、「さびしんぼう」あたりからの語りの多いスタイルに、やっと納得が行くようになったファンも多いかもしれない。
 この映画も主人公の「語り」が物語を導いて、それもなかなか効果を上げていて、観ている方も物語に入り込んで行くのがスムーズに感じられる。深まる秋の夜長にふさわしいドラマの堪能となると思う。
 筋書きをくわしくお話したいところだが、それは御法度だなあ。 ミステリアスな話の進行を楽しんで欲しいし、くたびれた中年サラリーマンが、もっとも心ときめかせた日々の蘇り、それゆえの悲しさや切なさ・・、過去へつながる電話に語りかける峰岸さんが、今までにない哀しさを漂わせていていい。
 また大人になって、いつか封印した記憶の本当の意味、そして過去を変えることの怖さ、そういったクライマックスも見どころだ。

  ■配役も豪華だ。「あの夏の日」の勝野雅奈恵ちゃんが、繊細な魅力の女学生を演じてくれているし、小林桂樹さんは、物語の足をしっかり地につけてくれる。主人公の奥さんを、清水美砂さんが落ついて現実的な存在感。久しぶりに映像でソフトな表情を見せてくれた裕木奈江さん、彼女はちゃんと現実の上にいるのだが、どこか不思議で柔らかな存在でもある。「なごり雪」では台詞がなかったが、すっかり大林映画に入り込んだ感じの津島恵子さん・・と充実した配役。

 過去の甘美でありながら、悲痛でもある記憶、それが、この物語ではファンタジーとしてよみがえりながらも、現代という時間と改めて対峙するところなども「なごり雪」へと通じるものがある。 しかしこの「告別」では救いとしてか、帰る場所としての夫婦と家庭、それが健全に再生する方向へと、人の温もりが用意されているのがドラマとしては幸福だろうか。
 この映画でも、舞台になる長野にある土地、それがこの独特なファンタジーを支えていて、ここちよい田舎の風景と、映画「姉妹坂」でも使われたリストのピアノ曲「ため息」が、ゆったりと物語を包み込んで、晩秋の人の心の色彩に、ふさわしい時間を演出してくれるだろう。

 ●赤川次郎の短編「長距離電話」を大林宣彦が映像化。過去につながるふしぎな公衆電話から、サラリーマンがダイヤルした相手は高校時代の親友だった。過去の悲しい別れがよみがえる。電話に出会ってからのふしぎな四日間を描く。 長野県上田市でロケが行われ、優しい風景の中で収録が進んだ。「この作品は十年ほど前から映像化したいと、温めていました。懐かしい雰囲気のある上田の街に出会ったことで、作品にするための扉が開きました。BSのハイビジョンで実現できて幸いです」と大林監督。
( BS-i )●監督:大林宣彦●原作:赤川次郎(「長距離電話」より角川ホラー文庫刊) ●脚本:石森史朗/大林宣彦 ●撮影:稲垣涌三 ●制作:BS-i/国際放映 ●CAST ●峰岸 徹 ●清水美砂 ●裕木奈江 ●勝野雅奈恵 ●津島恵子 ●小林桂樹
● 平成13年度日本民間放送連盟賞 ドラマ部門最優秀賞  ● ハイビジョン国際映像祭2001ドラマ部門 最優秀賞 など受賞。
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by past_light | 2004-10-05 15:10 | ■主に映画の話題 | Trackback | Comments(0)
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