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「初恋のきた道」 ・・・永遠の家
  この頃、この映画については、もう神話化しているほどだった。  話題がネットでもたくさん掘り起こせるような感じだった。

 神話化というと、ほんとうにこの映画はそんな上昇する魂の輝きを思い起こさせる。

 「初恋のきた道」の予告編にも使われていた、 久世 光彦(作家・演出家)さんの映画の推薦文がある。

「この映画は乾草と花の匂いのする『聖書』である。私は実に久しぶりに『永遠』ということについて考えた」

 この言葉、見事に映画「初恋のきた道」を凝縮し、あらわしているなあと感心した。

  とすると、とても芸術的難解な映画かと、御覧になっていない方は思われるかもしれないけれど、そりゃ誤解と言うものだ。
 もうひとつネットで見つけた「ホッチkiss」さんという人の感想もとてもうまいので、そういう映画だとも紹介したい。

「はうぅぅ、チャン・ツィイー可愛いよう~、可愛すぎるよう~。どうしてとっとこ走るんだよう~」

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「ディさん! 先生が名前を聞いたよ!」


 芸能人なんかがよく聞かれるのに「初恋はいつですか?」という質問が多々あるけれど、「あれからずっとです!」などときっぱり答えられる人は、世界中を探しても数えるほどしかいないでしょうか。
 蛇足で言うと、西欧で思い出せばどうしてもキリスト教のお話になってしまう。「テレーズ」という乙女が、主イエスに熱病のように恋をする修道女の映画があったが、これは現実の、ここはちゃんと異性のハナシだ。

 外の空気をも運んで村に到着した二つ年上の先生。目で追い、少しはなれた場所から同じ方向に歩き、彼の通る道を待ち伏せし、毎日の水汲みも学校の側の井戸に変えたり、手にとられるかわからないけど、時間をかけた美味しいお弁当を毎日山盛り・・。

 これもネットで見つけたハナシ。
「一緒に観ていたオクサンが、・・結局ストーカーの映画なのね・・と言ったのを聴いた旦那は愕然とした」という(笑)。


 女の子にはだれでも覚えがありそうな・・というのはとっくに昔の話かもしれないが、先生に恋をして、毎日がドキドキ。その後、いつかめでたく結婚という人はいないわけではない。でもやっぱり現代だと、あまり聞かなくなった話なのも逆に興味深い。
 というのも、この映画の初恋の舞台は1950年代の中国の農村である。現代のハリウッドも日本の映画制作者も、発想すらできなかっただろうか、シンプルな初恋の成就する映画。ものすごいカウンターパンチ。 チャン・イーモウ監督の現代に対するひとつの挑戦状ではないか。
 あのデカプリオ版映画「タイタニック」のポスターが、二枚もこの田舎の家に貼ってあるのに気づいた人は多いんだろうか。

 その時代の村には電気も水道もないし、なんにもないけど、だからこそ、自然の風景に溶け込んだ暮しからしか生まれそうもない一途な恋情・・だと思いこみそうだが、一方ではそれはまた実は革新的なことだったのだ。


「当時、自由恋愛など村では初めてのことだったので、村では評判になった」

 恋の経験がない人はいない・・だろうと想像するが、それは確かじゃないからいいとして。 誰でも一時は熱にうなされるような時間を知っているだろうと思う。寅さんは知っている。ぼくもイチオウ知っている。たしかに発熱するよ。 多くの男性が(けっこういい年配でしょう)泣きに泣いたという感想も多かった。ぼくはそんな涙は流さなかったが、胸が始終熱くなったし、心の洗われる感情が立ち昇る経験があった。
 初恋の時の眩しさ、無垢なる至福な魂の支配下に置かれた人の輝きがあったからだ。

 主演のチャン・ツィイーは、むずかしかっただろうと思う。でも素敵な表情が永遠に残った。
 走る初恋、愛おしい後ろ姿の表情。そしてチャン・イーモウ監督は、これでもかと彼女の表情をアップでスクリーンに映したかった。
  永遠が今なのだ、と。

「ある人が娘の心を持っていってしまった。割れてしまった丼だけでも残してやりたい」
「では、心をこめてなおさないと」


 しかしその愛情の顕現も、母との二代にわたる女気質だと思えば、より胸の熱くなる話ではないか。
 映画の冒頭から、ディの母は「夫が死んだその悲しみで、泣き過ぎて目が見えなくなった」という神話も語られている。

 母の敏感な感覚は、ディの心の変化を、音符を聴き分けるように知っている。それゆえの深い優しさがなんとも伝わって来て、木の歴史のような母という人の確かな実在感がある。

 映画は、「黄色い大地」でも感じさせた中国の田舎の「黄色い自然」を思い出させた風景の映像によって、村の美しい四季の変化に合わせるように、初恋の行方が語られて行く。

 一時間半足らずの短い時間の映画なのが、かえってより「永遠」を感じさせるという不思議さが生まれたような気がする。
 語りべであるチャオ・ディの息子の、母と語るシーンにしても、とても静かな感動をさせてくれた。

 死と別れと悲しみと冬の、そしてそこから生きていくための明日へ向かうシーンはモノクローム。
 ラストシーン、チャオ・ディの顔にオーバーラップするカラーの「初恋のきた道」、
  重なるその道は、永遠の家へ至る道。


 チャン・イーモウ監督はこの映画を「中国の伝統である詩的な物語。愛について、家族について、そして家族の間の愛についての物語」と要約している。

                                 (2002.5.28)

初恋のきた道 (The Road Home) 原題「我的父親母親」/ 2000年 89分 米中合作
監 督 チャン・イーモウ(張芸謀) / 出 演 チャン・ツィイー/スン・ホンレイ/チョン・ハオ/チャオ・ユエリン / 2000年 ベルリン国際映画祭銀熊賞
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by past_light | 2004-09-29 01:40 | ■主に映画の話題 | Trackback(1) | Comments(2)
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Tracked from ぐぅちゅえんの見たり読んだり at 2006-10-25 07:26
タイトル : チャン・ツィイー -初恋のきた道-
美しいです。景色が! 可愛らしいです。チャン・ツィイー!! 美人のイメージの彼女ですが、 この作品は、ひたすら可憐です。 純粋、素朴、無垢。 もう、理想の少女像でしょう。 「LOVERS」の時のような、 綺麗、可愛い女性ではありません。 チャン・ツィイーのファ... more
Commented by acoyo at 2004-09-29 09:15
ううん……この映画のこと思い出させないでください。泣けてくるから。
Commented by past_light at 2004-09-29 14:11
思いださせてすまんです。(笑)
しかも、旧作ばかりですまんです。

ところで、しばらく一週間程度は更新休みます。すまんです。