向田邦子ドラマ『あうん』「または玄関の話」

 テレビでお正月恒例だった「向田邦子のスペシャルドラマ」のはなし。

 この年(2000年)、のドラマは例年とはやや違っていて、加藤治子大女優が役として出ていなかった。でも味のあるトーンの声とあの語りのやさしさで、ドラマを運んでいってくれるナレーションは素晴らしかった。

 田中裕子と小林薫のベテランの味がいつものように楽しめたが、それも他の役者さんたちの地味だが確かな仕事ぶりがあっての話だ。
 年齢相応の渋味が、いぶし銀のように光る森繁さんや、娘役の市川準の演出CMでもお馴染みの少女も、お父さん役の役者さんも、自分のいる場所をくっきり感じさせて、しっかりとドラマの土台・設定を創っていた。

 ドラマの中身は、映画でも高倉健が出演していて、なかなかよかった記憶がある話・・有名な「あ、うん」だ。
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 昭和初期のこの時代・・ぼくは生まれていないのに懐かしく感じるのは何故だろうといつも思う。
 特にぼくは日本住宅の典型的な造りの家が好きなのだ。
 「がらがらぁ」と開く玄関は特に贅沢なものに感じる。そういう古くなり味のある存在感を漂わせる通りから少し奥まった玄関の、そのまた奥に、ささやかに広がる生活空間を想像することのできるような家。
散歩などの途中に出会うと、とても懐かしくてうらやましく、「住んでみたいなぁ」といつも思ってしまう。

 ところで男の友情も、「あ、うん」が付くほどの関係というのは今頃はあまり話にも聴かない。
 このドラマの時代なら、よく存在したかどうかは定かではないとしても、、やはり戦争とか、そんな究極の状況に居あわせた人たちの関係には「死」を共に前にした経験が人の関係に深さを与えるのかもしれない。
 だからといって、そんな時代が良いというのはまったくの浅薄だし、そういう状況でなければ深い関係が成り立たないと認める気はもちろん少しもないのだが。
 人の関係も環境だけに形作られてしまうとすれば、それは悲しいことだろう。

 ドラマ「あうん」の出来はまあまあというところなんだろうか。
 それでも、「会社を倒産させて無一文になったが、今まで通りおつきあい願えますか」と玄関先で顔をあわせる小林薫と田中裕子のシーンは良かった。 
 これは原作、脚本の力だろうとも思うが、もうひとつ素晴らしかったのは・・娘が、いったん壊した縁談の相手と喫茶店で逢っていることを帰ってきたその玄関先で咎められ、叱られるシーン。

  その時、加藤さんのナレーションの、
 「その時の叱る母の声とその顔にあるのは、娘が急に女として目の前に映りはじめたことへの戸惑いと、またそのうとましさに、意地悪をしたいかのような、そんなふうにわたしには思えました」(注 : 正確な台詞ではないです)
 というような言葉がかぶさり、確かに場面 、田中裕子はそれを見事にあらわしていた・・。

 その文学的なナレーションは、とても深く状況を言い表わしていて、TVドラマの本来あるべき姿の強さを感じた。
 ナレーションというものはこういう力があるのですよね。よく考えればむずかしいが魅力のある道具です。

 それに、思えば玄関という場所で、いろんなドラマ・葛藤が生まれるというのも、なにかと象徴的です。
 外と内との最初に触れあう場所、そこにある危うさと色気、そんなものが玄関という場所には存在する。
 向田邦子のドラマには、そんな玄関と云う場所がうまく生かされている。

 振り返って見ればやや不自由な、道徳的にも圧力の強い時代・・だが今の世の中とは違う、現代では喪失したような、静かなのに内に激しい、そんなエロティシズムが人と人の関係にあることを向田邦子のドラマは思い出させてくれるような気がする。
( 2000.1記述 2004.9修正)
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Tracked from 龍の目 at 2004-12-25 00:39
タイトル : 向田邦子ドラマ好きには必聴です
一昨日は会社がお休みだったので、 印刷をお願いしていた年賀状を受け取りに、 夕方になってから近所の百貨店へ出かけました。 年賀状を受け取ったあと、 久し振りにCDショップに入りまして、 1時間近く店内をふらふら歩いていました。 そこでマニアにはたまらない究極のCDをゲットしました! ですから、マニア限定です、究極の1枚です。 興味のない方には何の面白みもない記事が進みます。 僕は10月9日付の記事「向田邦子新春スペシャル」(TBS系)で、、、  それから毎年お正...... more
Commented by acoyo at 2004-09-27 14:43
向田邦子は、確か大学のときにはまりまくった時期があります。
でも、「あうん」に関してはNHKの分が最高かなあ……映画も悪くなかったけど、あの独特の暗さ、がなかったので。
Commented by past_light at 2004-09-28 02:07
NHKのは観てないなあ。そういえば、舞台中継の「あうん」は観た。
杉浦さんでしたか、あの役者さん好きなんですが、巧くハマってた。
「あうん」は確かに暗さと言う点では他よりも軽い感じです。
「阿修羅のごとく」と「想い出トランプ」でしたか、こっちは重量級です。
by past_light | 2004-09-27 02:38 | ■主に映画の話題 | Trackback(1) | Comments(2)

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