「相合い傘」

 「寅さん」といえば、テレビ東京で断続的な全作放映があって、たまに懐かしい作品に出会っては、途中から観てしまうということがある。
 途中からでも観ていられるのは「寅さん」ならではということもある。
 だいたい昔観た記憶が微かにあることが多いので、お馴染みの「とらや」を舞台とした登場人物面々と寅さんとの、人情をしっかり核にしたやりとりがおもしろおかしく、それにまたかなしい。
 この映画を観ていると、その心を許した関係に起きる、ときにそれに甘えたり、我がままな馬鹿げたやりとりの中にも、その話につきあう僕らの情と心のありかを、ふと確かめたりしてしまうこともあるように感じる。

 二十歳前後のころに劇場で観た「男はつらいよ」シリーズは、その頃もっとも脂の乗った「寅さん」でもあり、毎年「キネマ旬報」のベストテンに入るほどの出来映えでもあった。その頃友だちとも「三本立て寅さん映画祭り」のような企画に通ったこともあった。 それは同時に「ルイス・ブニュエル」とか「イングマル・ベルイマン」とか、芸術的、難解、・・とか時に言われる映画とも並行してのことだった。

  ある時、ブニュエルの「昼顔」を友だちと観た。観終わってから友だちが、「(あのシーンで)、となりの席の奴がさあ、『ここは笑うところじゃない』とか、ぶつぶつ言ってんだよ」とちょっと憤慨して言った。
 そのシーンというのは昼だけ娼婦になるという、普通の恵まれた主婦である「昼顔」カトリーヌ・ドヌーブの、そのなにも知らない旦那に嫉妬する「昼顔の客」であるちんぴらが、その旦那を銃で撃ち、自らも警官から逃げる時にあっけなく銃で撃たれる、まるでアマチュアの8ミリ映画のような淡泊な画面で淡泊な死に方をするシーンだ。b0019960_18520662.jpg 友だちは、そのシーンで大きく声を上げて笑っていたので、となりの観客が聞こえよがしに言ったものかもしれない。他の客からもそのシーンでの笑い声はあった。 それはブニュエルの、ある意味では望んだ観客の反応だとぼくは思ったので、友だちの「おかしければ、笑っていいんだよ」という意見にまったく賛成した。
 いったい「ここは笑うところじゃない」なんて言葉の出る硬直した人の感受性が、ブニュエルのみならず、どんな映画制作者も喜ばせないだろうということはあきらかだ。しかし、そんな感じの映画マニア、当時けっこう他にもいただろうか・・。

 話を「寅さん」に戻そう。先日観た朝丘ルリ子が再登場のマドンナ二作目「相合い傘」は、シリーズの中でも、けっこうリアリティのある寅とマドンナとの関係性が、ヒリヒリするほど伝わる作品だ。
 やはりこの映画は、マドンナ役の力量と設定に大きなウエイトがあると改めて思いいたる。
 また朝丘ルリ子という女優の巧さが、温美清のこなれた柔軟な演技と絶妙に絡み合っていて、他のシリーズに時々物足りないと感じさせるマドンナとの関係性の現実味に、しっかり重みを与えている。
 それゆえ、ふたりの別れはいつにもまして哀しい。最後の作品には四たび朝丘ルリ子が出ているのだけど、まだ観ていない。

b0019960_18255329.jpg もういつからか、ぼくは新作を観なくなっていて、たまにテレビで歳をとった寅さんの、そのあきらかにエネルギーの少なくなった姿に接して、映画もシリーズとしては無理が来ていることを感じていたが、初期から中期の作品にこうして再会すると、まだ若くて元気な寅さんの迫力が、この映画の生命力そのものなのだと思われた。
 温美清という人は、スクリーン以外の場面では穏やかな枯れた話し方をする人だったのが印象的だった。

 ぼくが観たマドンナとして記憶に残る名作は、この朝丘ルリ子さん出演作、佐藤オリエさん出演作、それから逆求婚されそうだった寅の慌てぶりが、かなしくおかしい八千草薫さん出演作、人気シリーズ吉永小百合さん出演作、新人で抜擢、当時のアイドル榊原ルミさんの、無垢な瞳の演技で強い印象を与えた作品(寅次郎奮闘記?)・・当たりがなつかしく思い浮かぶ。        (2002.3)

[PR]
トラックバックURL : http://past.exblog.jp/tb/353141
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Tracked from にじばぶの映画 at 2007-09-02 00:30
タイトル : 昼顔
『昼顔』(1967) 上映時間: 100分 製作国: フランス ジャンル: ドラマ/エロティック/アート 監督: ルイス・ブニュエル 原作: ジョセフ・ケッセル 脚本: ジャン=クロード・カリエール/ルイス・ブニュエル 撮影: サッシャ・ヴィエルニ出演: カトリーヌ・ドヌーヴ ジャン・ソレル ジュヌヴィエーヴ・パージュ ミシェル・ピッコリ フランソワーズ・ファビアン マーシャ・メリル ピエール・クレマンティ ...... more
Commented by acoyo at 2004-09-26 18:59
寅さんは、実は私、第一作目はビデオ買いました。友人には奇特な奴と思われましたが。寅さんもそうですが、御前様が好きでした。ただ、温美清という役者のことを考えると、彼は果たして役者として幸運だったのか、そうでなかったか、同居人と今でもよく議論になります。
Commented by past_light at 2004-09-27 02:18
第一作目が面白いらしいですね。ぼくは観た記憶がないのですよ。
なんだか、車家の美男美女の家系図の最後にブタの顔があったとか(笑)。
きっとパワフルな幕開けだったんでしょうね。

温美さんは、ほんとに静かな人でしたね。
他のコメディでもとてもよかったですが、あれほど国民的な映画になってしまって、うれしくも、また複雑だったでしょうね。
by past_light | 2004-09-26 02:30 | ■主に映画の話題 | Trackback(1) | Comments(2)

過去と現在、記憶のコラム。関連ありなTBはラヴリー。リンクはフリー。コメントはブラボー。


by Past Light
プロフィールを見る
画像一覧