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「キアロスタミのジグザグ道~桜桃の味」
 イランの映画監督、アッバス・キアロスタミの「友だちのうちはどこ?」を観た時は衝撃だった。
 学校で、間違って鞄に入っていた友だちのノートを、明日の宿題に困るだろうと厳しい母親の監視にめげずに家を抜け出し、そのノートを友だちの家に届けにいくという話しだけど、その道のりのなんと遠いことだろう・・。
 だんだん日が暮れて、初めて出逢う暗い街角のひっそりとしたよそよそしさ、知らない人たちの視線や声、迷路のように少年の行く手を阻む友だちの家へ続く道・・。
 お話は翌朝の学校の情景で終わるのだけど、とても素晴らしい映画に出逢ったと思った。
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 その後BSで、続けてキアロスタミの「ジグザグ道三部作」であるという、残りの「そして人生はつづく」、「オリーブの林をぬけて」も観た。
 この監督もプロの俳優はあまり使わずに、その土地の住民を選んで出演させているのだが、それがもう、プロではこうはいかないだろうという存在のリアリティと実際的な生活感を、各出演者が醸し出しているのが観ていて楽しい。

 それで、これも録画してあった、その頃比較的最近作の「桜桃の味」を観た。
 自殺の計画にちよっとしたフォローをしてくれる人間を、埃っぽい土の丘に捜して廻る話しだ。
 そこで出逢う人の表情がとてもよくて感心して観ていた。
 なかなかイスラムの教えに忠実な青年たちは高い報酬にも応じてはくれず、観ているぼくにもほっとするような、または落胆するような不思議な気持ちを抱かせる。

 車で捜しまわるこの丘の道もジグザグだが、ようやくそこで出逢う、頼みを引き受けてくれそうな老人との場面に切り替わる時の、映画的な転換も素晴らしい・・。
 車中、その老人の語る深い真実味のある話しも、主人公の男の心を動かすのかどうかは、 それもまたジグザグ道のようだ。
 黙りこくってしまう男と老人の静かで押し付けようとしない対話の時間が美しい。

・・「もう一度、朝日を、夕焼けを、桜桃の味を味わいたいとは思わんかね」という老人の話しを 試してみるように、男は暫し、暮れていく街を眼下に眺めてみる・・。

 男は何故か、老人に念を押し手順を確認してくれるように、もう一度会いに行く。
その男の曖昧な心の揺れがぼくらには唯一の望みなのか・・。
 男は予定通り身支度を済ませるとその丘に行き、暫く夜景を眺め、自殺用の穴の中に横たわる。 雷が鳴り、天候は急変しそうだ。 穴に横たわった男の上に見えるのは流れる雲に見隠れする月。
 雷の光に時おり照らされていた男の顔も、やがて画面は暗転し、その表情も伺うことはできない。

 ・・・そして朝がくる。
 しかしその画面はなぜかビデオカメラの映像で、撮影スタッフや出演者たちのロケ風景である。
 監督の「ここで終わりにしよう。」という声がする。
 ・・こんな終わり方はいやだ、という人もいるようだ。
 また、あの老人の話しが男を救ったはずだという人もいるだろう。

 キアロスタミはどうして、こんな映画を創ったのだろう。
 それは「ジグザグ道」の意味の中にあるのだろうと思う。
 キアロスタミは---「ジグザグ道」は目標にたどり着くことの難しさ、あるいは大切な何かを捜すことのシンボルだ---と言う。
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by past_light | 2004-09-23 20:52 | ■主に映画の話題 | Trackback(2) | Comments(2)
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Tracked from 太陽がくれた季節 at 2005-04-27 00:57
タイトル : ■〔映画評Vol.10〕『桜桃の味』(1997/キアロス..
こんばんは~、 皆さん、ようこそお越しくださいました。 私め、 ゴールデン・ウィーク前の仕事上の正念場を乗り越えました! もう、今日の昼過ぎからの開放感といったら無かったなぁ、 ****** 見えて来たぞぉ~、 ゴールデン・ウイーク! 五月の青空!五月の新緑!五月の空気!(―うーん、空気が見えるって云うのは説得力が無いかもな~(^^)) ****** 五月といえばもう初夏… 過ぎ行かんとする春を惜しんで、 僕に取って、春の映画として忘れ難いものの...... more
Tracked from ASIAN BABY at 2005-04-28 23:16
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Commented by acoyo at 2004-09-24 01:06
こちらで好きな映画の話が出ると、ついTBしたくなります。
でも、キアロスタミは、こんなに素敵に書けないから、諦めよう。
Commented by past_light at 2004-09-24 17:51
TB、どうぞ、楽しみにしてますから。
ありがたいことです。なんでも楽しみですよ。
キアロスタミでも、キライデスカンでも。(笑)

ステキなんて、ひさしぶりで実にうれしいお言葉です(笑)。