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谷川俊太郎にまつわる話---2.「情」

 今となれば、過去の話をまっかな赤の他人がほじくり返すようなもの、御当人には酷な話かも知れない。しかし、これぞ有名税、記録が残る、そのことの恐怖でもありましょうか。
 しかし糸井さんの「詩の安売り王」という命名を気持ちよく賛辞として受け取ることのできるひとだから、そんな一読者の行為も許容されることだろう。

 いわば、たとえ現在形でなくても、夫婦とか・・そういう普遍的な形態に関する話なのだから。 (それでもぼくも、昔の記事をふと読み返すような居心地の悪さは否定できない。しかしとうに過去のことであれ、いまは変化した現在であれ、その時その場のきらめく事実、なにも隠すべきものでもない)

谷川俊太郎にまつわる話---2.「情」_b0019960_14562899.jpg ■ある雑誌(鳩よ! 1991年3月号)で佐野洋子さんが対話していて、谷川俊太郎がいかに彼女によって、いじめられ-(笑)- 地上に引きずり降ろされたかを、非常にドキュメントに話していたのが興味深かった。
 もしかしたら、一部のフェミニストの女性は勘違いして手を叩いて喜ぶのではないかとも思うような話しだけど、実は最後まで読んでいると佐野洋子の谷川俊太郎に対する愛情の深さが感じられるだろう内容だ。

 --谷川さんには世間が欠けている。つまりそれは情が欠けているということである。--
その事実を彼女は容赦なく暴き立てていて、例えば友人でもあった寺山修司の死に、当時、谷川さんに「あなた、すごくショックでしょう」と聴いたところ「ううん、僕、別に・・あいつの仕事は、全部だいたいわかったから、僕はもういいんだよ」と答えたという谷川さん。
 --それでいてお葬式では葬儀委員長をやって、みんなを感動させる詩を凛々と読み上げる。--
そういうことが信じられないことに感じたそうである。が、彼女の「努力」?の甲斐あって?、この雑誌の対話の頃には「いま、寺山が生きていたらしゃべりたいことがたくさんあったし、すごく惜しいことをした」と時々言うようになったそうだ。

 面白い話に(面白がっていいかどうかは別にして)、佐野さんが、あるときもらった谷川さんのラブレターの詩を、暫くしてから「あれ雑誌に発表してもいい?」と聞くので、ラブレターを発表する神経に驚いたそうだが、詩人にとって作品の一つと思い「いいわよ、じゃ持って来る」と答えたら「ううん、大丈夫。もうコピー取ってあるから」。

谷川俊太郎にまつわる話---2.「情」_b0019960_19183236.jpg エピソードは引用を始めると佐野洋子さんを呼びたくなるので(来るわけないが)これぐらいにして、原文全体(鳩よ! 1991年3月号)を、お読みになれない人のために、佐野洋子さんの「・・でも、そうした全てをひっくるめた上で、私、非常に尊敬していますし」「・・あれこれ言ったけど悪口じゃないのよ、私、愛してるのよ」・・という言葉を忘れないようにしておきたい。

 ・・終わりのほうで登場する谷川さんのセンスのいい話しを付け加えると「・・しかし、前途は明るいよ。だってこうして僕には、お抱え批評家がいるんだもの。で、僕はこの人のお抱え執事なの。だからウチは、批評家と執事がいて、主人のいない家なわけ」・・・。

 谷川俊太郎の佐野洋子、遭遇以後のことは前日にも書いたけれど、、大江健三郎さんが危惧したことが、まさにここでは肯定的に感じられるかもしれない。しかし、それは肯定も否定もできないことであるということは、今も変わらない思いなのですが。

 ぼくは昔、プライベート・ビデオ作品上映の小さな集いで、谷川さんと近い距離で話しを交わしたことがある。谷川さんのファンで彼のビデオ作品にも興味があったのだが、観賞後その感想を発言したりした。
 「ビデオは(フィルムと違い)言葉に近いと思う」と言ったら深く頷いて谷川さんが共感し、彼もそう言ったのがうれしかった。 ついでに「谷川さんは、バランスをとても大事にしている感じで、それは非常に大事なことだと思うし・・」と、つい調子に乗りミーハーなファン発言に近い話しをしてしまった。
 それは当時、ぼくが感じていたホントのことではあったが。それは自分のなかのイメージとしての谷川俊太郎だったのだろうか・・。いや、もしかしたらぼくの洞察もさほど捨てたものでもないかも知れない。

 それにしても、その頃の佐野さんの谷川さんへのエネルギーの結実のような話しを聴いていると、ぼくはバランスどころか、佐野洋子女史語るところの「近頃、若い人に-才能のない-谷川俊太郎が増えている」という指摘に、なんだか当てはまるような気がした。 しかも、実は残酷にも若くないのに!・・なのである。
(1999.8記述 2004.9修正・加筆)

Commented by acoyo at 2004-09-15 02:11
才能の無い谷川俊太郎、という言葉は重いですね。いえ、それが誰に向けられたというのではなく、佐野さんだから言える台詞、という気がして。
でも、お会いできただけでなく、お話できたなんて、ほんと、羨ましいです。
Commented by epokhe at 2004-09-15 18:40
はじめまして。
「中年クライシス」の記事をTBさせて頂きました。
past_lightさんの視点が気に入り、リンクも貼らせて頂きますが宜しくお願いします。
Commented by past_light at 2004-09-15 21:21
acoyo さん
重いですよね。たぶん「若い人」じゃないほうが、もっとオモイ(笑)。
谷川さんは、わりと会える機会の多い方の詩人かもしれないですよ。

epokheさん、
はじめまして。ありがとうございます。
TBというの、ぼくもいつかチャレンジしたいですね。
まだブログと言うシステムが把握仕切れていないですが・・(笑)。
まだ少しだけ読ませて頂いただけなので、また後程読ませて頂こうと思います。
リンク、ありがとうございます。


by past_light | 2004-09-14 20:57 | ■Column Past Light | Trackback | Comments(3)

過去と現在、記憶のコラム。

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