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GABBEH ART

 イラン遊牧民カシュガイ族の手織絨毯の「ギャッベ・アート」の図版集を、以前、文庫で見つけた。
 「ギャッベ(Gabbeh)」とは、ペルシャ語で「粗い」という意味だそうだ。

 ぱらぱら捲っていくと、まるでクレーの絵のような色彩とフォルムや、原始美術的な線画、また幾何学的な抽象紋様にはインドのタントラ的な図を思わせるような世界などが溢れている。
 そしてその深い赤や青、緑の色彩といい、形といい、あんまり美しいので、ちよっと吃驚して、さっそく購入したものだ。

 遊牧民の女性たちの手によって染色された、太い粗目の羊毛の糸によって織られるそれらは、手本も図案もなく即興で作られるものらしい。
 柄にあるモチーフは、花や動物、人、そして目立つのはモダンアートのような幾何学的な紋様だ。
 前述のようにタントラの図も思わせるが、それらに多分影響を受けただろう・・アメリカの抽象表現主義に入れられてしまうけれど独特な世界を感じさせた「マーク・ロスコ」も思い出させる。

 元になる羊毛の糸は植物染料で染められるのだそうだが、写真で観ていてもなんとも深みのある目をひき付けて吸い込まれる感じのその色彩だ。

 ギャッベを織る女性たちはモダンアートなどという意識もなく、明快な美的感性をくつろぎながら発揮しているのかと、ちよっと沈思黙考したくなる豊かな図版集だ。
 色濃い血の通うような暖かみというのは、モダンアートが失いがちなというか・・、あるいは無理して出せるものではない「正直なもの」なのかと考えたりもする。

 余談だが、ジョン・レノンがオノ・ヨーコの個展に訪れたのが、ふたりの最初の出会いだが。
 ヨーコに天井を観るように促されたジョンが、そこに「Yes(はい)」と書いてあったことがジョンにとっては決定的なことだったという。
 そのころの「ほかの現代美術(コンセプトアート)には感じることのなかったあたたかみを感じた。」とジョンは後に言っている。 もし、その言葉が「No(いいえ)」 だったら、そのまま帰っていただろう、と。

 昔そういえば日本人に対して、「イエスマン」なんて皮肉の言葉があったが、Real(本当)な「yes(はい)」という肯定にはすごく力があるのかも知れない。

----図版は、京都書院アーツコレクション(81)「GABBEH ART」(¥1000)の中装丁。----
by past_light | 2004-12-11 02:18 | ■コラム-Past Light | Trackback | Comments(0)

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