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ミケランジェロ・アントニオーニ

 ミケランジェロ・アントニオーニというイタリアの映画監督がいます。

 途中からテレビで観ていた映画の後で、映画制作と監督についてのドキュメントも放送された。それを観ていたら、その途中からしか観れなかった映画は、惜しくも、もう有名俳優のめじろ押しの4つのオムニバス形式になっている内容だった。
 しかも、あの「ベルリン天使の詩」のヴィム・ヴェンダースが助監督みたいなことをやっていた。
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 登場する俳優は、知っているだけでもマルチェロ・マストロヤンニ、ジャンヌ・モロー、ソフィー・マルソー、ジャン・レノ、ジョン・マルコビッチ、ファニー・アルダン・・とまだまだ凄い顔ぶれである。
 ドキュメンタリーでは、それぞれの役者にされるインタビューを聞いていて、アントニオーニに対しての尊敬と期待は想像以上だった。この監督も将来もっと神格化さえされていきそうなほどの内容だ。

 俳優がそれまで蓄積した技能などが通用しない、まったく新しい境地を要求される、または体験する、というような話が、彼らの話には共通していた。

 もうかなりの歳になるはずだけど、フェリーニもいなくなったイタリアの最後の巨匠ということになるのだろう。

 ぼくがかつて観た彼の映画は、精神の内側にある風景を役者が淡々と演じながら、重苦しい表情がいつも印象に残る、ちよっとつらい映画体験・・とも言えるもので、なんとなく息苦しくなる感じがあったが、いつも演じている俳優が画面のフレームから消えた後の背後にある風景が、ゾッとするような、まるでどこか知らない惑星の風景のように佇んでいるのが強く心に残るものだった。

 それが・・特別な場所を映しているわけではないというにも関わらず、不思議な怪物のようなオブジェに見えるのは何故かということに興味があった。

 話を戻して、その夜の映画の最後のエピソードだけ全部観たのだが、教会に急ぐ若く美しい清楚な女性に勝手に気を轢かれて同行する若い男との道ながらの対話、それがとてもミステリアスで面白かった。
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 この現世に関心を失っている瞑想的な精神にある女性は「あなたは死がこわいのね。わたしは生がこわいの」と静かに言う。

 教会では初めての体験らしい男が、ミサの終りを待つ間つい眠りこけてしまい、誰もいない教会から慌てて飛び出していくのが、実に感覚的に伝わってくる演出だった。

 すでに夜になった街で再会した女性に、「明日また、会えないかな」と交際を申し込むのだが、部屋へ帰るドアの前で彼女は突然のように言う。
「 明日、修道院に入るの」。

 このエピソードにおいて、その前述した「風景」とは、目に見えるものとしては、彼女のアパートの各部屋の窓の中に見える住人たちの、様々な日常にある生活の姿がラストに映されていくだけなのだ。
 が、その光景を観ながら・・・ぼくらには女性の言ったその言葉が残す余韻の生み出したある凄い精神風景が重ならざるをえない。
 彼女の一言はエピソードを観終わった観客を圧倒する。その圧倒は、劇中の男のそれでもある。
Commented at 2004-12-08 11:53 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by acoyo at 2004-12-08 13:49
おひさしぶりです。
アントニオーニは若いときに何か「観なければ!」と勢い込んで観て、爆睡した暗い思い出が……。今、観た方が面白いのかもしれません。
Commented by past_light at 2004-12-09 01:31
acoyoさん、ネット時間はひと昔が早く来ますね。
そういえば、劇場に来て寝てしまうのも、作品の力だ!
なんて意味のこと、誰か言ってませんでしたっけ?(笑)。

お正月とかにテレビで映画を観ていると、どうしようもなく眠くなる時があります。
「地下鉄のザジ」はそういう記憶があります。(笑)
あの早回しみたいなテンポが、睡魔のリズムだったのか・・。
by past_light | 2004-12-07 19:36 | ■主に映画の話題 | Trackback | Comments(3)

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