「マルホランド・ドライブ」  デイヴィッド・リンチ

リンチの大方の映画というのは、世界の暗部を描くかたちとしては圧倒的な形式かもしれない。それの真骨頂にある映画が「マルホランド・ドライブ」だろうか。
初期の「イレイザー・ヘッド」あたりは、その二度と見たくないと思わせ、うなされるような悪夢そのものの恐ろしさ、不快さ、音響もそのままの世界で、恐怖映画の斬新さがあったが、それもマニア的に感じた。
しかし「マルホランド・ドライブ」では、「ツインピークス」から続いているような、現実の世界と繋がり、重ね合わせた世界の暗部、呪術、ブラックマジックに操られた悪意の人物が暗躍し、平静な日常の太陽の光からは隔絶した闇の力が、ぼくらの世界を揺るがして不安になる。

ツインピークスでは、「ブラック・ロッジ」という言葉も散見されたが、これは善なるフォースの集団が「ホワイト・ロッジ」ならば、「ブラック・ロッジ」とは悪のフォースの集団ということである。これについてはリンチは、その神智学的な類いの知識があるのだろう。そういうアイデアを生かして取り入れたという気がしていたが、あくまで物語の要素としてだろう。
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健全な性善説の世界で生きている人には、どうしてもあまりお薦めできない。怖がりの方は観ない方が良い。
というより、「マルホランド・ドライブ」の物語を順を追って着いて行きながら理解しようとしたら、わけが解らないということになる可能性が大きい。
むしろ夢の物語が、時間軸も登場人物も、起きる事の次第も錯綜し、パッチワークのように継ぎはぎされ、解きあぐねる自分の心理の解釈も一筋縄でいかない秘密の層をなすように、そんな悪夢の展開を楽しむことがお好きならお薦めしたい。
謎解きにやっきになりたい中毒性もありそうだ。しかもリンチの映画に登場する女性はエロティシズムもブラックマジック的だ。

しかし、あくまでこの映画で描かれたのは、リンチ自身が言うように、「ハリウッドの暗部」を、「抽象として」描いたということで納得できるだろう。
田舎からダンス大会で優勝した女優志願の女性。彼女が夢を描いて着いた土地がハリウッド。その地に着いたときから彼女はマジックにかけられている。その後、彼女はハリウッドの世界で生き、「愛」や「挫折」や「嫉妬」や「憎しみ」を経験し、どうなっただろう。
富の集中するセレブな世界の闇に、平凡なぼくらは馴染みのないブラックマジックがかけられている。
葛藤と罪悪感、そのドライブの果てに辿り着くところは・・。

事の次第は整理すると単純なのだろうが、映画全体で、その世界、人間の暗部の感情が「抽象」として構成された意欲的な作品。キューブリックの「アイズ・ワイド・シャット」をふと思いだした。
こういう映画は作る作者自身の方が楽しいのじゃないだろうか。見せられるほうは、映画の展開に妙に釘づけになりつつも、観終われば、明るい太陽の下で解毒したくなる.
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by past_light | 2009-11-23 18:05 | ■主に映画の話題 | Trackback | Comments(0)

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