愛の懲りない面々

 若い時というのは、それだけで価値がアルと思うのは、思う頃になってからのハナシだ(笑)。
 影響と感化の洪水に浸りたまえ。刺激の風をマトモに受けよ。さあ、手こぎ舟で闇の真っ直中へ進むんだ。

 このふたつの映画感想は、二十代に「キネマ旬報」に投稿して掲載されたものだ。2回送って2回とも掲載されたんだ。それでコツがあるのだと気づいた。多少文章は矛盾錯綜しててもいい。独自の視点と、決めつけることだ。とんがってて、いい。

■ 愛のコリーダ 大島渚

 この映画の藤竜也演ずるキチは、サダに限りなくやさしく献身的である。そして、裏返したようにサダは極度な独占欲に支配された女である。それを女の性と見るよりはむしろ、男の性質の方に近いとは言えないだろうか。さらに、この映画を男女の逆転劇と見ることは乱暴だろうか。

 キチとサダに限らず、男と女に対する定義というものは、双方の機能別、傾向別などの発想からなる先入意識の産物にほかならないはずである。故にそれを一度捨て去ってみることによって、覆い隠された深淵を照らし出すことも可能ではないだろうか。

 飯田善国氏の「両義性としてのデュシャン」の文で「女は最小のペニス(クリトリス)を持つことにより、『最小限の男性』と考えることができ、男は最大限のクリトリス(ペニス)をもつことにより『最大限の女性』としても考察することができる。したがって交接は、最小限の男性と最大限の女性との交わりであるというパラドックスが成り立つのである。・・」とある。

 この映画のほぼ大半を占める性交の描写はあたかも、キチが実は女であり、サダが男であるという逆説を生むためのものに見えてくるのだが、どうだろうか。 そしてこの映画は、その逆説の女であるキチのサダへの献身と、そのキチを支配し、喰い殺してしまった逆説の男サダのラブストーリーとして、生々しく描いている。
 快楽のためにはキチの首を絞めるのも平気なサダに較べれば、その快楽のテクニックをサダに独占させるキチのやさしさは、出征兵の列と逆方向に歩く虫も殺さぬ姿に重なるのである。それを理解しないのは非情だ。

 そして、サダの快楽のテクニックは、永遠のエクスタシー願望によるクリトリス(ペニス)の苛立ちによって、あの結末を生むのである。 そのオドロシサに怯えず、女性観客を客席に多数見ることが出来るのは、大島渚のテーマとするものが、テレパシーみたいに伝わって来るからであろう。(1977.10下旬号掲載)


■ 自由の幻想 ルイス・ブニュエル
b0019960_16345329.jpg
 ブニュエルはシュールレアリスムの彼方を目論む映像作家だ。
 「私にとって、それはこの世で最も美しい青春の夢のあらわれ」と、シュールレアリスムを形容したマルセル・デュシャンはブニュエルのこの成長を予想できたただろうか。

 過去シュールレアリスムは、最も過激な芸術運動であった、と前置きして「・・今日では社会そのものが過激になり、芸術の解説に暴力を使うのは、あまり効果のないことになった」と語る今日のブニュエルの作品は、貴品さえある穏やかさだが、そこに着実にシュールレアリスムの彼方への作業を続ける体現者の姿がありはしないか。

 諷刺とも見えるいくつかのエピソードも、単なるブラックユーモアのカテゴリーを超えてリアリティを持つのは、画家フランシス・ベーコンの絵に登場する不気味な顔を持った人物に見られる、人間の自我の崩壊の予感としての、一瞬かいま見る不安で醜悪なアンフォルムの顔がもはや現実となった時、その顔につけられる無表情でシリアスな、しかも不思議にオプティミカルな仮面での生活が始まっており、その楽天家たちが様々に街ですれちがう時の摩擦音によって生まれた、そのエピソードの明細がこの映画の素材と言える。

 また、シュールレアリスムの典型的な手法による不可思議な出来事は、その楽天家の仮面の内側で起こる原始の瞬きによって隆起したあわれな現実なのだ。
 このブニュエルの開放されたイマジネーションの産物は、エピソードからエピソードへの奔放な転換と相俟って不思議な調和を生み出す。 冒頭と最後に叫ばれる「自由よくたばれ!」の言葉は仮面の生活により維持される日常の瓶詰めの繰返しの自由に安住する人間の怠惰を、ブニュエルはきわめてアイロニーカルに警告しているのだろう。

 しかし、それでいてなんと 楽しい映画だろうか、一体ブニュエルは老人になれるのだろうか。
(1978.1下旬号掲載)
(ブニュエルは、無事に亡くなりました)
[PR]
トラックバックURL : http://past.exblog.jp/tb/1231753
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Tracked from +propernoun+ at 2005-06-28 11:51
タイトル : 自由の幻想(1974/仏)
:::stuff:::監督: ルイス・ブニュエル/ジャン=クロード・カリ...... more
by past_light | 2004-11-30 21:35 | ■主に映画の話題 | Trackback(1) | Comments(0)

過去と現在、記憶のコラム。関連ありなTBはラヴリー。リンクはフリー。コメントはブラボー。


by Past Light
プロフィールを見る
画像一覧