「崖の上のポニョ」

昨年、映画の方は見逃しながら、かわいい主題歌だけは何度も聴いた覚えばかりある。
意外に映画のベストテンなどからは外れて、大方の評判はあまり芳しくなかったのかと思っていた。
久しぶりにレンタルのカードを作ったので借りて観た。
結論から先きに、とてもいいです。

宮崎さんという人は感心しちゃう。他に日本に誰が作れるかと思わせる。
映画評論家の中にはまるでだめな人が多いということがわかる。たぶん少なからず表現とか創作とか関わる人は、やっぱり宮崎さんはすごいと思うところがありありと感じられる作品だろう。

ことに、これほど子どもの内面世界に近くありつつ、大人の抑制、分別を排除して、想像を突き進める態度に敬服するし、苦しいながらきっと楽しい時間だろうと羨ましくもある。
映画では数十秒で終わるエピソードの部分に、迷いつつどれほど自身の無意識と向き合って時間をかけているかがテレビで放映されていたが、それはいざ観客としては、無念にもなかなか汲み取るほどには見尽くし感じ尽くせないものだ。制作途上の作家としての必然で、また特権的で贅沢な苦しみなんだろう。
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アマゾンのレビューにたくさんある感想を少し覗いてみた。
賛否に分かれるというより、既存のアニメファンにはなかなか受け入れられないという節の書き込みも多い。
子どもの反応の話も面白い。何度も観たがる子もいるし、あまり反応のない子もいるという。
お母さん方のなかには、ポニョの天衣無縫、奔放さ、母親の行動や、子が親を名まえで呼ぶなど、拒絶反応もある。
また物語の整合性とかのディテールの省略的な設定が、受け入れがたい人も多いようだ。

しかし考えてみれば昔話とか神話など、謎,不思議なまま接して無意識に残り、こころに影響を与える物語には事欠かないのではないか。
なぜ桃太郎は川から流れてくる桃の中から生まれたのかとか。浦島太郎が亀に乗り竜宮城で遊んで帰れば、お土産を開けてしまい老け込んじゃうとか。そこには魅力的な解けない「謎」が詰まっていて、それはぼくらの無意識にそのまま到達していつまでも謎として働いているような気がする。そのことこそ人間の心の深さ、不思議なのだ。

いろいろ思っていて、映画のオフィシャルサイトを見たら、宮崎さんの制作意図の解説があり、なんだ、このとおりの映画じゃないかと膝を叩いた。

「海辺の小さな町
海に棲むさかなの子ポニョが、人間の宗介と一緒に生きたいと我儘をつらぬき通す物語。
同時に、5歳の宗介が約束を守りぬく物語でもある。
アンデルセンの「人魚姫」を今日の日本に舞台を移し、
キリスト教色を払拭して、幼い子供達の愛と冒険を描く。
海辺の小さな町と崖の上の一軒家。
少ない登場人物。
いきもののような海。
魔法が平然と姿を現す世界。
誰もが意識下深くに持つ内なる海と、波立つ外なる海洋が通じあう。
そのために、空間をデフォルメし、絵柄を大胆にデフォルメして、
海を背景ではなく主要な登場人物としてアニメートする。
少年と少女、愛と責任、海と生命、これ等初源に属するものをためらわずに描いて、
神経症と不安の時代に立ち向かおうというものである。」
宮崎 駿


とくに「ポニョが・・我儘をつらぬき通す」という下りは作り手の意図として潔く響いてくる。
ポニョというキャラクターは、まさに幼児の持つ底知れぬエネルギーと、それを使い果たしてぽてっと眠る単純なる生きる姿のすごさを思いださせる。

手描きにこだわった理由も、よく理解される絵の世界で、キャラクターの感触さえ感じられる柔らかさ。それらは海の描写にも、ふと、咲いている花の可憐さなどにも表れている。

シンプルな物語として味わえば、荒れ狂う海の描写や、古代魚の泳ぐ水に侵蝕される陸地、ポニョのパワフルで躍動感あふれる大波の上の走りや、ロウソク仕掛け動力のポンポン船の楽しさとか、主人公たちと同年齢に当る子どもにはきっと大きな影響を与える作品だろう。

それから大人が深読みしてユング的、象徴的な考察もいくらでも想像たくましくされる物語でもある。その材料にも事欠かない。
陸地を凌駕しようとする海、海の母、人間であることを捨てて海に住むポニョの父親、地上に接近してくる「月」、悠々と泳ぐ古代魚・・・。それから人が夢で傍観するように、謎のような宗介の母リサと海の母グランマンマーレとの「対話」の謎。

宗介とポニョはなぜあれほど惹かれ合うのか、ポニョが人間になってその魔法の力を失いともに生きる意味は何か・・。
宗介の試練はひとまず終わったが、ポニョと生きることで続く試練があるだろうし、やさしい宗介が、男性として、大母から受け継ぐポニョの持つ女性性、自然のエネルギーとの和解するこれからの世界・・。もしかしたらポニョは救世主かも・・。
とまあこれほどいろいろ想像させてくれる物語も久しぶりという感じです。
まさにファンタジーという名にふさわしい作品です。

2008 原作・脚本・監督: 宮崎 駿
公式サイト
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by past_light | 2009-10-23 18:36 | ■主に映画の話題 | Trackback | Comments(0)

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