ブログトップ
「硫黄島からの手紙」 監督・クリント・イーストウッド
クリント・イーストウッド自身が半ば冗談めかして「日本映画のつもり」と言うのも、半ば本気ということだろうと思う。なぜこのように戦争を描いた日本映画が日本自身でつくれないのか、と考えさせるものだった。
内容には日本とアメリカと、どちらが正いか、というような愚かな視点はもちろん無いし、日本でさえこれほどフェアに描けるのか疑問を持つ。作者自身、戦場とは、善悪、敵味方に白黒の判定をつけるような単純な世界などないことをよくよく感じているということだ。
b0019960_18461033.jpg
映画は徹底して戦場での「人間」の状態を見つめる。とくに極限の状態での人間の姿を描いた映画では「野火」もそうだが、敵味方という立ち位置を超えて人間が描かれるものとしては「戦場のメリークリスマス」も忘れられない。どちらも原作が相当に優れたものとして存在する。
戦争もの、ということで合わせて思えば、優れたものというのは、戦場における非日常の状況の中で、露になる個としての人間性の様相を描いているかどうかだ。

(この映画ではたとえば、青年が憲兵になり、同行する上官が、ある家の犬を「通信のさまげになる」から「射殺しろ」という命令に、銃声だけを聞かせ犬を射殺したふりをしてその場を救おうとするエピソードがあり,米兵捕虜に治療を受けさせ、語りかける日本の隊長もいる。ひるがえって、上からの命令も無視し勝手に部下に自爆して死 ぬよう強要する隊長もいるし,日本の投降兵を遊びのように射殺する米兵もいる)

普段の日常においては曖昧にぼんやりとし、あからさまには浮き上がる事の無い人間精神の基底に沈む闇、隠れた深部が、容器の底の沈殿物をかき回すと上澄みに表れるよう、いわば仏教でいうような、餓鬼、阿修羅、そんな精神のヒエラルキーが、そもそも地上の人間の精神の中のことをあらわしたものとよくよく感じられる。そんな場面が戦場では出現し、コントラストを持って白日に暴露される。

「人間の検証」とは事の後では遅すぎるのではないかと思われる。
いったん状況が極限に追込まれたときのそういった人間を真に想像できる者は、甘美的な、あるいは脅迫的な言葉を並べて他者を地獄へ煽動することはないだろう。しかしいざ煽動される側も、普段の自らの精神の闇には注視することなく、偽物を偽物と気づかず、外部の価値観に翻弄された習慣の延長に、もしや地獄はあることを肝に銘じなくてはならないのだろう。
[PR]
by past_light | 2009-09-12 21:19 | ■主に映画の話題 | Trackback | Comments(7)
トラックバックURL : http://past.exblog.jp/tb/11920426
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by さすらい at 2009-09-14 02:36 x
この映画はまだみていませんが、「人間」というものに照明を当てたものだとしたなら関心をそそります。
見る機会があったらぜひ見てみたいと思います。
Commented by past_light at 2009-09-14 19:26
全編が日本語で描かれているのもユニークですね。
感想は創作的ですので、(笑)あしからず。
分りやすいドラマ的な映画の作りでもあり,それに若い俳優がいいです。
Commented by さすらい at 2009-09-23 22:17 x
中国の監督の「南京!南京!」という映画が、中国の視点と日本の視点の両方から描かれたそうで、そのために監督は「非国民と脅迫状をもらったようですが、日本での公開が決まったそうです。ちょっと興味があります。「南京虐殺」については、日本でもいろいろいう人が出てきましたから。
Commented by past_light at 2009-09-24 20:11
どこかのニュースの記事で知った記憶があります。
内容はともあれ,「非国民」というのはどこも同じなんですね,売国奴とか自虐史観とか、既に言葉が暴力的で品格なしですね。
Commented by さすらい at 2009-09-24 23:07 x
アウシュビッツを否定する人までいます。すべての人が率直に歴史に目を向けるというのは難しいことなんですね。言葉の品格なしというのは同感です。67億の人が、将来一つの地球を守っていけるのだろうかと心配になります。
Commented by past_light at 2009-09-25 01:27
愛国というものが他者を排除したがるというのはどうも不条理で小児。
その案日バランスに気づかないのは異化にも不思議ですね。(笑)
Commented by さすらい at 2009-09-28 03:20 x
昔から、「愛国主義はならず者の最後のよりどころ」という言い方がありました。他の一切を受け付けない人たち、賛同しなくてもいいから、話を聞く耳ぐらいは持って欲しいです。