『河童のクゥと夏休み』原恵一監督

きっと、なんとなく子どもにねだられて、映画館に着いていったお父さんとかお母さんとか、子どものアニメ映画だし昼寝でもしとこう。なんて思っていたら、なんだかこりゃ大人の映画かと思って、びっくりして、引き込まれて、突如涙が出て来て困ったなんて経験をされたんじゃないか。逆にそんな感性が鈍っていたら要注意かもしれない。

このアニメ映画は二年ほど前にキネマ旬報のベストテンの5位に入っていて、なんだか気になっていたのだけど、テレビで放映されたので、最初の15分ぐらいを見逃したけれど、そこから録画して観てみた。

絵のタッチとか、あまり好きな部類じゃないと思いつつも、人物の、特に子どもの移り変わる表情の変化など、こと細かく演出しているのに感心した。そしてリアルということを改めて思い直した。
物語は江戸時代から化石化したようにして、ひよんなことから少年にこの時代に救われ、目を覚ました河童の子どもと少年とその家族の話からはじまり、少年の学校のいじめとかシカトとか、少年と河童クゥの遠野への仲間探しの夏休みの旅とか、どこへ行っても人ばかり、という動物もため息出そうな閉塞感など。
そしてやがて河童のクゥと家族がマスコミに翻弄されたり、といった話が展開する。
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河童のクゥと少年とその家族構成とか、ETによく似ているが、過大なアクションシーンなどで盛り上げることはなく、展開する話はけっこう現在の社会のリアルな匂いがつよくて、作者の意外に大人の批評的な目線が、ことにマスコミ騒動などの場面では辛辣である。
それがすごくリアルだというのは、話の持って行き方というより、そこに登場する人物たちの一挙一動をみごとに捕らえた場面などの積み重ね、そして作者の透けて見えるシニカルな視線が感じさせるものだろう。

もちろん作者は、善なる人、子どもの一挙一動の細かな表情や動作の変化を、アニメという世界のなかで、むしろ実写では演技者が現すのがとてもハイレベルな次元でしか成立しないかもしれないことを、ていねいに見せている。
そういう細部があるからこのアニメ映画がとてもリアルな物語に感じられるのだろう。

例を挙げると、家族がテレビ出演中の、司会側のアシスタントよろしくな女性タレントのリアクション。もうまったく周りが見えていないって、こういうシーン。意外にかくれてるけれどあるなあ、と思うところなど。タレントはリアクションの自己演出に夢中で河童のクゥの前を行き来したりして足を踏みそうになるような場面でクゥがびっくりしている表情が映されたりする。
それから、いじめられたりシカトされたりしていたクラスの少女と、少年との対話のシーンなどはとくに見応えがある。子どもの心の奥底の鬱屈した感情、いったん子どもが心を開いたときの清々しさ、少女が「話ししてくれてありがとう」と突如泣きじゃくる場面は、むしろ大人にこそ痛切である。

アニメにはめずらしく130分を超える長さだが、作者がそれでもやむなく切ったシーンを想像させられる。
背景は実写でもなかなかこんなに美しく撮るのは難しいというほど丁寧に描き込まれている。
どうせリアルというなら「実写にしては」と思う人もいるかも知れないけれど、河童のクゥという存在や、現代では住処を追われた異界の生き者たちを作り物とCGで描くとかえってそれから遠ざかるだろう。それに飼い犬の活躍とか全体を見渡すと、アニメという世界の持つ表現が、現実とファンタジーを融合し内面の世界を具象化する手段としての可能性を、これもまた宮崎ジブリの世界とはやや違う形で伝えられるのではないかと思ったりする。
130分余りを見終えた頃には、クゥとの再会を切望するような自分がいる。

監督は『映画・クレヨンしんちゃん』シリーズですでに絶大な人気というとだが、ぜひここはピテーエー推薦とかハンコ押してあげてほしい。
映画のオフィシャルホームページ
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Commented by さすらい at 2009-06-20 01:16 x
 ざんねんなことに、この作品の放映を見落としていて気がつきませんでした。Past Lightさんのこの記事を拝見して、その思いを強くしました。
 見ていない作品の内容について書くことはできませんが、幼い子どもが、自分だけに見える友だちを持って、おしゃべりをしたりする話を何故か思い出してしまいました。子どもだけに見えるピーターパンのような存在を。
Commented by past_light at 2009-06-20 01:53
さすらいさん、こんばんは。
そうですね、ぼくも近頃はちゃんと番組表をチェックしていなくて、見逃す映画や番組が多いです。
たまたまこの日は早めにウォーキングから帰って来ていて、思いだしたんですよ。

またBSだと再放映の日があると思いますので、ぼくも最初から見直してみたいと思っています。
なかなかいい力作のアニメです。
by past_light | 2009-06-19 16:46 | ■主に映画の話題 | Trackback | Comments(2)

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